ハリマ化成グループ

One Hour Interview

One Hour Interview

ゴムの強さの謎の解明に王手をかける

池田裕子

ゴム研究室の学生は絶滅危惧種

ゴムの研究の歴史は長く、タイヤメーカーもどんどんタイヤを進化させてきました。にもかかわらず、分かっていないことが多かったという今日のお話には、驚きました。

硫黄架橋ゴムの正確な構造はほとんど誰も正確には分かっていませんでした。しかし、私たちは今、スプリングー8を利用した研究で、その全貌を明らかにしつつあります。加硫反応のメカニズムが分かればそれをコントロールする技術も、物性を制御する方法も確立できるはずです。

ゴム練り機。ゴムを練っているときにカーボンブラックを混ぜる。

約180年の歴史を持つ加硫のゴム科学にパラダイムシフトが起きそうですね。

 その可能性は十分あります。日本発でパラダイムシフトが起こるといいですね。でも、今、日本ではゴム科学を学び、研究するところが減ってきていて、私の研究室の学生は絶滅危惧種と言われています(笑)。日本だけでなく、アメリカでもゴムの研究室は減っているようで、この研究室も私の代で終わってしまう可能性が高いです。しかし、日本には優れたゴム会社がたくさんあるので、若い技術者に期待したいですね。

 もちろん、私たちも頑張ります。特に、飛行機や大型トラックのタイヤ には天然ゴムが必須ですが、地球規模での異常気象の影響で、いつまで安定して東南アジアで天然ゴムが採れるか分からない今、化学の力で高性能ゴム製造技術を確立する必要があります。ヘベア天然ゴムの樹以外の植物から採れる天然ゴム、例えば、ワユーレやゴムタンポポから採れる天然ゴムの高性能化には、加硫技術の発展が重要となるのです。私たちも、オハイオ州立大学から、ワユーレ天然ゴムをいただいて、その研究を行っています。

お話を伺っていると、まさにゴムに魅せられた研究者人生ですね。

 ACSのプレスリリースが後押ししてくれて、私たちの研究にはJST(科学技術振興機構)からも資金が出ています。また、昨年には京都工芸繊維大学に、恐らく日本では初めてのゴム科学研究センターを開設することができました。定年まで、あと数年しか残されていませんが、天然ゴムの強さの謎とゴムの加硫の正体を解明したいと考えています。そして成果を世界に発信し、人類が平和で豊かな社会の中で幸せに過ごせるよう、ゴム科学から貢献できたらと、人生をかけて研究しています。

熱プレス機。練ったゴムを金型に入れ、プレス機で圧力をかける。

京都工芸繊維大学 分子化学系教授  池田裕子[いけだ・ゆうこ] 1956年生まれ。1986年、京都工芸繊維大学大学院工芸学研究科修士課程修了。1988年、名古屋大学大学院農学研究科博士課程中途退学。同年、京都工芸繊維大学助手に。19年間、助手を務めた後、助教授、2015年4月より現職。工学博士。2014年第29回オーエンスレーガー賞受賞。助手時代は学生から「鬼軍曹」と呼ばれたが、今は「学生のお陰で研究ができている、毎日、手を合わせている」と話す。両親の介護をしながらの研究生活で「仕事と介護の両立のしんどさが身に染みる」とこぼすが、周囲は「あのエネルギーはどこから来るのか」と驚嘆している。

「第27回松籟科学技術振興財団研究助成 受賞」

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