ハリマ化成グループ

One Hour Interview

One Hour Interview

ゴムの強さの謎の解明に王手をかける

池田裕子

21世紀を迎えても分からないことが

ゴムの物性ということですが、ゴムの研究にはもう長い歴史があるのですから、だいたいのことは解明されていたのではないのですか。

 それが違うんですよ。いろいろ調べるとまだ分かっていないことばかりで……(笑)。たとえばタイヤとして十分な性能を持たせるためにはカーボンブラックを補強充てん剤として入れるといいことは知られていますが、なぜいいのかということは今でもまだ、はっきり分かっていないのです。

 ひとつの理由は、カーボンブラックの分散の程度を調べる分析で、長い間、3次元のものを2次元でしか見ていなかったので正確な情報が得られておらず、力学物性との相関がうまく説明できていなかったことにありました。しかしトモグラフィー技術などが発達したおかげで、21世紀に入ると私たちも3次元TEM(透過型電子顕微鏡)を使った研究を始めるようになりました。2004年には、世界で初めてゴム材料の中でシリカがどのように3次元的に分散しているかを明らかにした研究を発表しました。

天然ゴムがなぜ強いのかということも、実はよく分かっていないそうですね。

 天然ゴムの特徴のひとつとして、伸長結晶化が起こりやすいということがありますが、私たちはこれが天然ゴムの強さの秘密と考え、今はその研究もしています。さらに、たくさんのゴム製品をつくるのに使われている硫黄架橋(加硫)の反応機構も、実はまだ、十分には分かっていません。

 すでに、私たち人類はタイヤや制振ゴム、免振ゴムなど多くのゴム製品のおかげで豊かな生活を送っています。しかし、その製品をつくる網目構造がどのような網(=ネットワーク)なのかということも、はっきりと分かっていないのです。

 以前、私たちは東大物性研究所にお願いして小角中性子散乱測定を行い、その網目構造を調べたことがあります。そして、網目構造をつくるためにゴムに混ぜる試薬が、網目構造のモルフォロジーも制御していることを掴みました。これは、予想外の、本当にびっくりする結果でした。

 このように、ゴムの分野には、まだまだ分からないことがたくさんあって、研究をしていくうちに、私はどんどんゴム研究にのめり込んでいったんです。助手のとき、山下先生から「加硫に手を出すな、泥沼にはまるぞ」と言われていました。でも、いつの間にかすっかりその泥沼にはまっています(笑)。

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