One Hour Interview
ゴムの強さの謎の解明に王手をかける
池田裕子
加硫に手を出して泥沼にはまる
泥沼とはどういう意味ですか。
加硫反応は極めて複雑な反応で、その機構を一つひとつ明らかにするのは至難の技であるという意味です。また、研究してもなかなか成果が出ない、大変な研究だという意味もあります。
だから、もともと私には加硫の研究をする計画はなかったのですが、知らぬ間にそこにはまってしまっていました。天然ゴム架橋体の伸長結晶化の特徴を追究していたら加硫に行きついてしまったということです(苦笑)。研究では化学反応でモノをつくり、その物性を測り、構造を調べるという経路をたどるのが一般的なのですが、私の加硫に関する研究の場合は順序が逆で、まず構造から入り、物性との相関を調べ、それから化学反応にたどり着いたという感じです。
研究では大型の放射光施設を使われているそうですね。
ゴムの加硫反応を調べるためには高温下高速で測らなければならないので、兵庫県にあるシンクロトロン放射光施設スプリング-8を利用しています。最近は専門家ではない私たちもシンクロトロン放射光を使える環境が整ってきたことが背景にあります。もちろん、素人集団ですから試行錯誤の連続で苦労をたくさん重ねました。しかし、今では世界でトップを走る研究をしていると自負しています。
ゴムのサイエンスをもっと多くの人に知ってほしいので、昨年は『ゴム科学』という本も共著で出しました。お陰様で好評につき、今度増刷することが決まりました。また、この秋には英語版も出版予定です。