ハリマ化成グループ

One Hour Interview

One Hour Interview

ゴムの強さの謎の解明に王手をかける

池田裕子

やっとたどり着いたスタート地点

大変お忙しそうですね。

 実は昨日も英語版の本のゲラ校正のため午前3時頃までここにいました(苦笑)。タイから来ている留学生にも手伝ってもらったんです。

先生の研究の目的は、天然ゴムの強さの謎を解明し、天然ゴムに倣って新しい材料をつくることと、ゴム製品製造に必須の加硫の研究ですか。 

 そうです、その2つが大きな目的です。私は高分子化学が専門ですから、ゴム材料の構造がどのような反応でできているのかを探るのがメインになります。その過程で、ゴムの加硫における新しい反応中間体を発見しました。酸化亜鉛とステアリン酸はほとんどのゴム製品製造に使われていますが、それらが反応して生成する物質が、亜鉛カチオンとステアレートの比率が1対1の中間体であることを発見したんです。ところが2012年にそれに関する論文を投稿したら「常識外れで信じられない」と国際雑誌の審査で指摘されました。そこでコンピュータを使った理論化学により、酸化亜鉛とステアリン酸を反応させるとこの中間体ができることを明らかにし、論文を再投稿しました。

 私自身、びっくりしたのですが、ゴムの加硫反応はこの中間体の働きで生体の酵素反応とよく似た反応経路をとっているんですよ。研究開始から約6年かかって2015年の1月にこの論文を国際雑誌に発表することができました。すると、翌2月にアメリカ化学会(ACS)からメールが来ました。「あなたの発表された論文は、大変興味深い研究なので世界中にプレスリリースする」という内容でした。それはそれは、とてもうれしいことでした。でもそのあとでプレスリリースの文面を読んで、はっとしました。「池田チームは加硫工程のカギとなるステップを明らかにする研究を開始した」と書かれていたからです。

どういうことですか。なぜ驚かれたのですか。

 つまり、加硫反応の反応機構はまだ明らかになっていない、その研究はこれからだ、池田らの今回の成果はその一歩となると、正確な表現の記事であったからです。私たち自身は、やっとここまで来たかという達成の思いの方がそのときは強かったので、さあ、スタート地点だと言われて苦笑いとなったわけです。

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