ハリマ化成グループ

One Hour Interview

One Hour Interview

目標はポリマーと同等以上の伝導度を持つ透明なオリゴマー分子の開発

西長 亨

条件が揃えばいくらでも長いものが作れる

そういう研究をいつ頃からなさっているのですか。

 10年くらい前に約1年間、イリノイ大学で研究する機会がありました。その時に所属した研究室で、オリゴマーの研究をしていたのです。もともと取り組んでいた研究分野に活用するため、私もオリゴマーの研究をするようになりました。

 チオフェン環という5員環構造の化合物が、導電性高分子の中でも一番よく使われている、ユニットのひとつです。そのチオフェン環のポリマーのポリチオフェンは導電性高分子の中でも安定で、ある置換基を持っていると透明になるなどとても使い勝手のよいのが特徴です。最近、タッチパネルなどに使われている透明電極も、ポリチオフェンの仲間のひとつであるPEDOT(ポリエチレンジオキシチオフェン)の利用が検討されています。

 PEDOTの構成単位であるジオキシチオフェンのオリゴマーを研究しているグループはこれまでにもいくつかありましたが、溶解度が悪いので長いものは作れませんでした。私が研究を始める前に文献で調べた時は、せいぜい5個くらいまでしかつなげられないという状況でした。ポリマーならできても、オリゴマーだと難しいという背景があったのです。

それが、先生はできたのですね。

 EDOT(エチレンジオキシチオフェン)の類縁体であるプロピレンジオキシチオフェンを用い、有機溶媒に対する溶解度を高めるために2個のヘキシル基を入れ、両端をメチルチオ基で保護することにより、酸化重合を防いだ一連のオリゴマーを新たに設計・合成しました。そうすると、いくらでも長いものが作れるようになったのです。

長いオリゴマーを作れるようになったので、物性がきちんと測れるようになったということですか。

 そうですね。それまでは、なぜ透明になるのか、そういう物性が発現する確かな証拠がないという状況でした。それが、精密に長いものを作れるようになったので、どれくらいの長さにした時に透明性が発現するのかということを調べられるようになりました。そのためには、電子を入れたり抜いたりするドープという作業が必要になります。そして、8ユニットのものを使うと、溶液中ではドープしても透明度が高い可視領域に吸収がないようなものが作れることが判明したのです。

8量体のドープ状態の吸収スペクトル

現在はどういうことに取り組んでおられるのでしょう。

 伝導度を稼ぐという意味では、溶かしている置換基が邪魔をしているような状態になってしまいます。そこで、もともと電気をよく通すEDOTのユニットを組み合わせることで、透明性という意味ではポリマー以上に性能を上げることが期待できるのではないかと考えています。

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