One Hour Interview
電子、分子、外部刺激の協奏で新たな物質の創成へ
張 浩徹
数学から化学への転身
そうした研究で一番重要視されているのはどういうところですか。
人、ですね。実験などは学生諸君がやってくれているので、チームワークの取れたグループづくりが一番大事です。また新しいことにチャレンジするには若い人の行動力や斬新なアイデア、怖いもの知らず的な勢いが大事です。
先生もまだ若いじゃないですか。もう行動力や勢いはありませんか。
そう言われないように一応踏ん張ってはいますが(苦笑)。
ご自身も学生のときは斬新な発想をされていましたか。
僕がいた京都大学の研究室は新しいことにトライする雰囲気にあふれていました。だから常時10個くらいのテーマが進められていたものです。大したアイデアではなくても、とにかくやってみようという感じで。自由な環境で育ったので、苦労もしましたが、今、指導する立場になっても、そういうところを最大限生かすことが大事だと考えています。エスタブリッシュされた分野をコピー&ペースト的にやらせることも可能でしょうが、僕的にはそれはあまり面白くない。学生が、4月に入ってきたときには考えもしなかったことが、1年後の3月にはできているというのが面白いじゃないですか。
4年前に京都大学から北海道大学に移られてきたわけですが、環境を変えたことでプラスになったことは?
研究分野について言えば、触媒の研究に携わるチャンスをいただいたことは、僕にとって大きかったですね。学生や研究員などと一から話し合い、一つひとつ手づくりで研究を進めてきました。場所や人が変わると、新しいことをやってみようという気持ちになりやすいのでしょう。
まさに心機一転、というわけですね。研究者にとっては、違う環境に身を置くことがときどき必要になると。
適応力とかストレス耐性を養うという意味でも、それは必要なのではないですか。
化学に興味を持つようになったのはいつ頃からですか。
実は僕は大学に入ったときは数学科だったんです。ところが学部の2年生のときに有機化学の講義を聴いて感銘を受け、そこからスイッチが入ったんです。炭素は手が4本ありますが、ひとつ、二つと増やしていくと、四つ目からはいろいろな枝分かれ構造が出てきて、成分は同じだけど異性体がたくさん出てくる。それをどんどん増やしていくと恐ろしいほどの多様性が生まれる。そういうシンプルなものから多様性が生まれ、人間の身体が構成されて生命体をつくっているのだというような講義でした。難解な数学の問題を解くよりもそっちの方が魅力的に感じ、それから化学の勉強を始めました。