ハリマ化成グループ

One Hour Interview

One Hour Interview

電子、分子、外部刺激の協奏で新たな物質の創成へ

張 浩徹

電子の出入りで性質が変わる

その錯体分野でどういう研究をされているのでしょう。

 僕が着目しているのは、化学屋が扱える一番小さいユニットの電子です。電子というのは、色、構造、磁性、電荷、反応性などを司る最小単位ですので、それをいかにうまくコントロールして、物質の性質や構造を制御するかということ。それから分子単独では発現しない集団現象にも着目しています(図1)。分子集合体の中で電子を制御すれば多様な現象や物性が得られる可能性があるからです。そしてもうひとつは、電子を動かすための外部エネルギーとして熱や光等の外部刺激を使うこと。

図1:紫色結晶中に存在する左上の分子は加熱により電子移動を生じ右上の分子に変換されると同時に、緑色液体へと変化する。電子と分子が同期して変化する初めての例。

 外部刺激を与えることで、安定なところにとどまっている電子を動かしていろいろな現象を導こうと考えています。つまり、電子、分子、外部刺激が協奏する物質の創成というのが僕の研究のコンセプトです。

 このときキーワードになるのは、レドックス(Redox)活性配位子です。レドックスというのは還元(Reduction)と酸化(Oxidation)を意味する造語で、電子がアクティブに出たり入ったりすることを示しています。配位子というのは金属に結合するユニットのことですね。1個の電子が出たり入ったり隣のユニットに移ったりすることでカメレオンのように変化する性質を示す分子の開発について、ずっと研究しています(図2)。

図2:レドックス活性な配位子と金属からなる金属錯体ユニット。シンプルな骨格から多様な電子・プロトン移動が生じる。

その研究が最終的にもたらす成果としては、どのようなものが想定できますか。

 分子スイッチとして使えるとかメモリーに使えるという人もいますが、僕自身はそういうところよりあくまでも原理的なところに関心があります。どんな材料にしても小さな要素を集めて使うというのは共通した側面ですが、個と集団がどういう関係で影響を及ぼし合うのかということを化学的に理解し、制御する学問は、まだ確立されていません。そこの原理を押さえたいのです。ただもちろん、ミリ、ミクロン、ナノ、そして分子、原子、電子というように階層的に制御することはとても重要ですし、そこで一番小さいユニットの電子が上の階層に対してどういう影響を与えるのか、分子が分子集合体にどういう影響を与えるのかという原理を解明すれば、いろいろなところで実社会にも役に立つはずです。

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