One Hour Interview
最難関天然物の合成に世界で初めて成功
徳山英利
工業的生産への道を開く
先生が開発された方法で、化合物の枯渇という問題はある程度解決されるのでしょうか。
将来的には、これまでできなかった薬が工業的に大量生産できるようになると期待しています。今まで手を出さなかった化合物に対して、この方法ならやってみようと企業が考えるようになっていくかもしれません。有機化学というのは蓄積の学問だと思います。今ある薬や機能性化合物も、有機化学の発展過程で時間をかけて蓄積されてきた反応を使って生産されています。そうして蓄積された反応が、より洗練されていくと、工業的な製法も間接的に洗練されていくのだと思います。
改めてお聞きします。大家に勝って世界初の合成に成功し、権威ある専門誌に掲載されたときのお気持ちはいかがでした。
「AngewandteChemie」に論文が掲載されたときももちろんですが、一般的なメディアで評価されたという意味で、「Nature」に記事が出たときもうれしかったですね。あの学術誌に有機化学関連の記事が出るのはあまり多くありません。論文の発表後は学会の招待講演が増えたり、昔の友人から連絡がきたり、海外からの取材がきたりもしました。そういうことはやはりひとつのやりがいにつながっています。とにかく誰もできなかったものをできるようにするこの学問は、人間の根源的な欲求に訴えかけるようなところがあって、面白くてなかなかやめられません。
東北大学大学院 薬学研究科・医薬製造化学分野教授 徳山英利[とくやま・ひでとし] 1967年、横浜生まれ。東京工業大学理学部化学科卒。同大学院理工学研究科博士課程修了。ペンシルバニア大学博士研究員、東京大学薬学部(現大学院薬学系研究科)助手、同講師、同助教授を経て、2006年、東北大学大学院薬学研究科教授に就任。平日は深夜の11時頃まで研究室にいるというスタイルが、学生時代から今日までずっと続いている。学部生時代はスキーに熱中した時期もあり、現在は年に1回研究室を率いて安比高原などで楽しんでいる。
「第29回松籟科学技術振興財団研究助成受賞」
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