One Hour Interview
最難関天然物の合成に世界で初めて成功
徳山英利
ノーベル賞候補と競合
先生が開発されたカスケード型骨格転位反応とは、どういうものでしょう。
ウーン……、からくり人形のようなものといえばいいでしょうか。自動車がロボットに変身したりするおもちゃがありますよね。それに近いものと思ってください。構造をガラッと組み換えるのです。もちろんうまく組み換えられるように設計しておくわけです。この方法で私たちは世界で初めてハプロファイチンの合成に成功したのですが、実は、びっくりするような裏話がありました。
そこはぜひお聞きしたいですね。
サンディエゴのスクリプス研究所のニコラウ教授が私たちと同じような方法で同じ化合物を合成しようとしていたのです。この先生は合成の分野では世界的な大家で、次のノーベル賞の有力候補といわれているほどです。そのニコラウ先生が2003年頃、研究の途中経過を発表したんです。そんなすごい人と競合していることが分かったのですから、私たちはあせりました。アイデアがほぼ同じなので、もし向こうが先に成功したら、私たちの研究は無価値になってしまいます。向こうは博士研究員がたくさん集まってやっていましたが、こちらは学生が2人くらいで細々とやっている。そんな状態でいきなり戦わなくてはいけない状況に陥ったのです。
でも、先生が勝ったんですよね。
はい、そういっていいと思います。実は私たちの論文もニコラウ先生の論文も、ドイツの化学会誌「Ange wandteChemie」の同じ号に掲載されました。でも、私たちが投稿したのは2009年4月で、向こうは8月。それが同じ号に載るのも妙なのですが、間違いなく私たちの合成が世界初です。しかも両方の論文を比較すると、明らかに私たちの合成の方がいいことに気付いてもらえるのではないかと思います。