ハリマ化成グループ

One Hour Interview

One Hour Interview

最難関天然物の合成に世界で初めて成功

徳山英利

100キログラムの原料が7グラムに

そういうところで新しい化合物の可能性を見つけるしかないのですね。

 最近では抗体医薬とか遺伝子技術を使って、化学合成ではつくれない分子量の非常に大きな化合物をつくるという方向もあります。国内の製薬会社も例にもれず、そのような方向への流れが強くなってきています。

先生はどういう方向を目指しているのですか。

 私は化学合成の新しい方法の開発に取り組んでいます。というのも、最先端の有機合成化学を駆使しても、数ミリグラムの化合物なら合成できても、工業生産レベルの量をつくるのは難しいという現状があるからです。有機合成化学では何段階もの反応で化合物をつくりますが、それぞれの反応が100%うまくいくわけではありません。仮に1段階あたりの収率が80%とすると、0.8×0.8の繰り返しですから、分子量100の原料から10段階の反応を行って分子量500の薬をつくろうとすると、最初に100キログラムあった原料が55キログラムに減ってしまいます。50段階の反応だと、わずか7グラムになってしまいます。

一般には何段階くらいの合成がよいのでしょうか。

 10段階くらいが理想です。少なくとも20段階以内に収めないと、医薬の産業的な生産はできないというのが常識です。それ以上だと手間とコストがかかりすぎてしまうからです。たとえば、タミフルは分子量が300くらいで、これくらいの大きさなら工夫すれば10段階くらいで合成できます。ただ問題は、先ほども触れたように天然から見つかった小さい分子で薬のもとになるような化合物が減ってきているということです。そこでひとつの方向として、従来は合成が難しいからという理由で、誰も手をつけようとしてこなかった分子量の大きな化合物をつくることが考えられます。薬にしたら有効なのに、工業的な合成が成り立つかどうか分からないので、製薬会社も手をつけてこなかったという化合物があるのです。

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