One Hour Interview
最難関天然物の合成に世界で初めて成功
徳山英利
誰も合成していないものを合成する
いつ頃からこういう研究をされてきたのでしょう。
東工大の大学院生のときは、反応開発やC60、いわゆるサッカーボール分子にいろいろ鎖をつけたりしてどのような生理活性が見られるのか研究していました。本格的に全合成の研究を始めたのは、留学を終えて東京大学薬学部の福山教授の研究室に助手として入ってからです。化合物に含まれる有機化学的に未解決の問題は何かと考え、問題を設定してチャレンジし、誰も考えていないような方法で合成できれば、学術的な意味は大きいと考えました。しかもそれができれば世界はあっと驚きます。
誰も考えていない方法を考えること自体、難しいのでは、と思うのです。
手っ取り早いのは、世界で誰も合成していないものを合成することです。私たちが研究しているもうひとつの方向性がカスケード型骨格転位反応を用いる合成です。これを用いて合成したのがハプロファイチンです。この化合物は50年前から構造が分かっており、いろいろな化学者がチャレンジしてきましたが、誰も合成できなかった化合物です。この化合物の合成は、50段階くらいの反応が必要で、そのすべてを成功させないとうまくできません。49回までうまくいっても、50回目で失敗したらだめになってしまいます。ですからこれを有機化学の合成でつくろうとしたら、まるで詰め将棋のように何十手先までの反応を読む必要があります。
その場合、実際にはどういう作業になるのでしょう。
分子量の小さな化合物から始めてどんどん積み上げていく方法がひとつ。登山にたとえると、登山口からスタートして頂上(標的化合物)を目指す方法です。もうひとつは頂上から考え始める逆合成という方法です。頂上、つまり合成したい化合物の構造から少しずつ部品をはずしていくわけです。この逆合成の考え方でノーベル賞を受賞したのがハーバード大学のコーリー教授です。