One Hour Interview
最難関天然物の合成に世界で初めて成功
徳山英利
ステップエコノミーの追求
実際につくられたものはあるのですか。
あります。最近世界的に話題になったのは、日本のある製薬会社がつくった抗がん剤です。もとになったハリコンドリンBという化合物は、海産生物のクロイソカイメンに含まれているもので、分子量が1111の大きな化合物です。この化合物を最初に合成したのはハーバード大学の岸教授で、70段階くらいの反応が必要でした。ただ、2/3程度の構造でも、薬としての有効性が認められるということで、製薬会社は簡略化した化合物を見出し、60段階程度の工業的製法の開発にも成功しました。まさに、人類の化学合成の英知を結集して達成されたといえると思います。
60段階も反応させていたら、コスト的に難しいのではないですか。
そうですね。反応の工程数が多くても各反応が限界まで効率化されていると聞きました。また、この薬は活性が極めて高く1回の投与量が極めて少ないことも幸いしたのだと思います。だからぎりぎりのところで採算のラインに乗せることができたのかもしれません。こういう複雑でも極めて強い活性の化合物が10段階くらいで簡単に合成できるようになれば、今まで誰も手をつけてこなかった化合物が有効な新薬になるのではないか。そうしたステップエコノミー(工程数削減)の追求が私たちのミッションです。
つまり、パパッと簡単に合成する方法を開発するということですね。
そうですね。私たちは2つの方向で研究を行っています。ひとつは、連続反応です。ディクティオデンドリン類の合成がその一例です。簡単にいうと、フラスコの中でいくつかの反応を連続的に進行させる方法です。従来の方法ですと、フラスコの中で反応させると、停止させ、単離し、きれいにしてからまた次の反応をさせるという工程になります。工業スケールですと、有機溶剤の中に化合物を入れ、反応が終わったら溶剤をポンプで減圧留去するのですが、それだけで半日かかったりします。私たちはひとつのフラスコの中で6つの反応を連続的に進行させて、ディクティオデンドリン類を合成することができました。
連続反応させることは難しくないのですか。
難しいですよ(苦笑)。相当うまく設計しないと、うまくいきません。