ハリマ化成グループ

次代への羅針盤

次代への羅針盤

サイエンスも総力戦の時代です

十倉好紀

私たちがはやりをつくってきた

 かつてのプロ野球の長嶋や王のように、少年少女が憧れるようなサイエンスのスタープレーヤーを育てることも必要でしょう。小惑星探査機「はやぶさ」や「はやぶさ2」のようなサクセスストーリーが出てくると、自分もああいう研究をしたいと思う人が増え、夢が持てるようになるでしょう。つまりは今の我々研究者がもっと頑張らないといけないということかもしれません。

 もうひとつ、気になっていることを挙げれば、今の科学界は産業応用につなげる研究が多く、アプリケーション志向に偏りすぎているということです。本当の基礎的な研究をしている人たちに向けられるお金は、どんどん減っています。わずか数年先の応用という結果ばかりを求められるのでは、サイエンスやテクノロジーの新しい真理、価値を追究するどころではなく、スケールの小さな研究ばかりになってしまいます。それで若い人に「夢を持て」と言っても難しいと思います。

 このセンターの責任者として、私はマネジメントにも心を砕いています。けれども頭の中で考えているのは、ほとんどが研究のことです。十倉ルールとかマルチフェロイックスの発見とか、ずいぶんいろいろな研究をしてきました。人からは「何が本当にやりたいのか」とよく言われます。でも、私の中ではどの研究も、「これをやったら面白い」、「大きな発展がありうる」という価値を見いだしたテーマであり、その意味ではすべての研究テーマはつながっています。もしかしたら人と違う新しい研究をしようという意欲は強いかもしれません。はやりのテーマばかり選んだと思われることもありますが、そうではありません。私たちがはやりをつくってきたのです。人と違うことをしたいというのもある種のハングリー精神かもしれません。

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