次代への羅針盤
サイエンスも総力戦の時代です
十倉好紀
極めてシリアスな状況
今の人たちは、「自分は頑張っている」、「すごいことができそうだ」、そう思うこと、あるいは人からそう見られることをかっこいいと思わないようです。
アメリカも中国の研究者も皆、よい意味でがつがつしています。ただし、アメリカの研究者のトップもその多くはアジア系やヨーロッパ諸国から研究のために移った人たちですが、ものすごいバイタリティーを感じます。
けれどもそれは、国籍や民族の特性ではありません。多額の資金が投入されている現在の中国の科学界でさえ、時代背景や社会の雰囲気の影響が大きいように思います。
日本はもう70年以上も平和な時代を過ごしています。経済力が低下したと言ってもまだまだ豊かですし、安全です。そんな雰囲気の中では、ハングリー精神が自然と育つ道理がありません。だからこの現状をどうにかするのは非常に難しいと思われます。
それでも、研究の道に進む人が減っていることは、科学立国の視点で見れば極めてシリアスな状況です。ですからせめて、研究者の道に進んでも報われない、と思われてしまうことのないようにしたいものです。いちばん手っ取り早い方法は、資金をもっと投入することでしょう。でも、今の日本の財政事情から考えると、それも難しいかもしれません。ならば、研究は面白い、研究者の人生は楽しい、ということを私たち研究者のほうからもっと発信すべきでしょう。