次代への羅針盤
サイエンスも総力戦の時代です
電子型高温超電導体の発見など数々の実績を上げてきた物性物理学の泰斗は、今なお「現状に満足することはない」と意欲をたぎらせる。
Yoshinori Tokura
十倉好紀
理化学研究所 創発物性科学研究センターセンター長
3領域の研究者が結集
2013年に開設された創発物性科学研究センターには、物理、化学、エレクトロニクスという3領域の研究部門があります。多くの要素が集まったときに、ひとつひとつの要素が個別にあるときには予想もできなかった現象や性質が発現することを、創発性といいます。つまり、ここでは異なる科学領域の研究者が集まったということに大きな意味があるのです。集まることで創発性が発現することを期待できるからです。
3領域のうちの物理は、物性物理学を中心としています。化学は、合成した物質で新しい機能をつくろうという機能化学です。そしてエレクトロニクスは、量子技術が基本です。わかりやすい目標で言うと量子コンピュータの開発ですが、量子コンピュータの部門は2021年4月に理研の新しいセンターとして独立することになっています。
こうした3領域の学問分野を集めた研究施設は世界でもそう多くありません。もちろん集めただけでは何の意味もありません。集めたことでシナジーを発揮することが重要です。
自分の研究領域とは異なる領域の価値観や手法を知ることは、サイエンス、あるいは研究者にとって本質的に大事なことです。ただ、日本はそこが弱い。同じ領域でさらにターゲットを絞り込んで、そこで黙々と研究を重ねた結果、大輪の花が開くというサクセスストーリーはよく聞きますが、みんながみんなそういうことをできるわけではありませんし、そういう取り組みは実のところほとんどが成功しません。