次代への羅針盤
教科書に載るような仕事を、そんな望みを抱いてほしい
花岡文雄
研究者には国際性が必要
私が若い頃は、博士号を取ったらすぐ海外に行くのが当たり前。私も2年半ほど、米国に留学させてもらいました。そこで生活して研究した体験からは、言葉に尽くせぬほど多くのものを得ることができました。
ところが今はそういう学生が少なくなりました。海外に行って異文化に触れることはとても大事です。今はインターネットで世界中の情報を知ることができます。しかし、知識として知っているのと、実際に行って体験するのとでは全く違います。欧州は地続きでどこの国へも簡単に行けますし、米国は人種のるつぼと言われるように世界中からいろいろな人が集まってきます。そういうカルチャーがあるところはサイエンスが衰退しません。
日本も海外から来る人が増えてはいますが、ほとんどは短期間の旅行者です。異なるカルチャーに身を置こうとすればやはり海外に出ていくしかありません。海外に目を向けて国際性を身につけることはサイエンスをやるうえでとても重要なことです。
日本人はそれほどオープンマインドの人種ではありません。日本にいて、慣れ親しんだ社会の中で研究していくほうが楽かもしれません。しかし居心地のいい小さな世界の中にばかりいるのはもったいない。自分の知らない世界に出て行って、いろいろな文化があり、いろいろな人がいることを実体験で知って、もっと広い視野、豊かな創造性をぜひ養ってほしいものです。
もっと共同研究を。対等の研究者として意見を戦わせれば得るものは大きいはずです。
花岡文雄[はなおか・ふみお] 国立遺伝学研究所所長 1946年、東京都生まれ。東京大学薬学部製薬化学科卒業。同大大学院薬学系研究科博士課程修了、薬学博士。東京大学薬学部助手、米ウィスコンシン大学マッカードルがん研究所博士研究員、東京大学薬学部助教授、理化学研究所放射線生物学研究室主任研究員、同細胞生理学研究室主任研究員を経て、1995年、大阪大学細胞生体工学センター教授。その後、同大学院生命機能研究科教授、学習院大学理学部教授、筑波大学生存ダイナミクス研究センター・センター長などを歴任し、2018年12月より現職。1991年、「細胞周期進行を修飾する生理活性物質に関する研究」によって松籟科学技術振興財団の研究助成を受賞。2005年~2007年には日本分子生物学会会長。内藤記念科学振興賞、日本薬学会賞、紫綬褒章、瑞宝中綬章など受賞。ワーカホリックを自認し、つい最近まで「休みは正月だけだった」と言う。趣味は音楽鑑賞。
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