次代への羅針盤
教科書に載るような仕事を、そんな望みを抱いてほしい
花岡文雄
博士号は取ったけれど……
1990年代、文部省(現:文部科学省)は我が国の研究力を強化するために「大学院重点化政策」を打ち出し、その前後で博士号取得者が約2.5倍に増えました。これと並行して「ポスドク1万人計画」が進められ、2008年には当初の目標をはるかに超え、ポスドクが約1万8千人にまで膨れ上がりました。ポスドクを増やすこと自体は悪くはなかったと思います。しかし博士号を取得しても、その先の安定的な研究職が圧倒的に不足していました。その結果、優秀な人が研究職に就けず、路頭に迷うという事態が続出しました。その下の世代の人たちは、先輩たちのそうした姿を目の当たりにしています。それでは大学院に進学し、博士号を取ってもいいことがないと思うようになってしまうのは当然でしょう。この状況が現在も続いています。
こうした悪循環を断ち切るためには、優秀な若い研究者が長いスパンで研究に打ち込める環境をつくらなければなりません。そのためには国が減らし続けている大学や研究所の正規ポストの数を元に戻し、さらに増やすことが重要です。今のままでは、もうしばらくすると日本からノーベル賞受賞者は滅多に出ないという、以前と同じ状態に戻ってしまうと危惧しています。