ハリマ化成グループ

次代への羅針盤

次代への羅針盤

教科書に載るような仕事を、そんな望みを抱いてほしい

花岡文雄

危うい科学技術立国の未来

 生物の進化については、生存に有利なものだけが生き残るというダーウィンの自然選択説(あるいは自然淘汰説)が一般にもよく知られています。これに対して木村先生は必ずしも生存に有利なものだけが残るというわけではなく、中立的な変異もあり、そういうものも残るという考え方を提唱されました。これが進化の中立説です。また太田先生はその説をさらに発展させた分子進化のほぼ中立説を提唱された方です。中立説は当初、批判もされましたが、今日では遺伝学界での主流的な考え方になっています。そうして積み重ねてきた知見を後進に伝えていくこともこの研究所の大切な役割です。そのため研究所には大学院(総合研究大学院大学 遺伝学専攻)もあります。

 日本の遺伝学は世界でもトップクラスの水準にあります。けれども日本もうかうかとはしていられません。最近は中国が広い意味での遺伝学にも力を入れ、集中的にお金と人を投入しています。日本に追いつけ、追い越せと言わんばかりの勢いで、分野によってはすでに追い越されているところもあります。

 日本のサイエンス全体で言えば、現状はもっと深刻です。今のままではこれからの発展はかなり危ういのではないでしょうか。原因はいくつかありますが、一番問題なのは、若い人たちが研究者という職業に希望を持てなくなっていることです。それは研究者という職業が不安定だからです。

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