One Hour Interview
新たな手法を開発して既存分子の限界を破る
ハロゲンダンスを加速する触媒の発見で、国際的に注目を浴びた岡野健太郎さん。
従来にない手法の開発により、
社会に貢献する新しい分子を創出したいと言う。
岡野健太郎
神戸大学
大学院工学研究科
応用化学専攻教授
博士(薬学)
原子を望みの位置に動かす
2023年に先生はハロゲンダンスを操る世界初の新触媒を発見し、世界中の化学者を驚かせたと聞いています。これはどのような発見なのでしょうか。
ハロゲンダンスというのは有機リチウムが関わる非常に複雑な反応です。わかりやすく言うと、芳香環に結合したハロゲン原子が環上の別の位置に移動する反応を指します。この現象自体は1951年に発見されており、1971年にハロゲンダンスという用語が提唱されました。その後、1980年代にかけて多くの学術論文が発表されたのですが、この分野の研究はそこでいったん停滞しました。反応の制御が難しいため、手当たり次第に反応を試みてよい結果が得られたものだけを論文化するような状況で、結局ほとんどがうまくいかなかったためと理解しています。
何が研究の問題になっていたのでしょうか。
最大の問題は、ハロゲンダンス反応を制御する方法が分かっていなかったことです。この反応は短寿命中間体を含むために、当時の技術ではその機構も積極的に解明されていませんでした。一方、医薬品や農薬、機能性材料に含まれるベンゼン、ピリジン、トルエン、フェノールなどは、「芳香環」と呼ばれる環状構造を共通して持っています。もしハロゲンダンスを自在に制御できれば、有用な芳香族化合物を効率よくつくる強力な手法になると直感しました。
それを先生たちはうまく制御できるようにしたということですか。
そのとおりです。芳香環の望みの位置にハロゲン原子を導入できれば、多様な化合物の合成が可能になります。ピリジンはハロゲンダンスしやすい芳香族化合物として知られていましたが、文献で報告されている例と比べて、構造が少し変わるだけで反応が進行しないケースが多かったんですね。ところが、私たちが発見したホウ素を含む触媒を使うと、無触媒条件では進行しないハロゲンダンスが著しく加速されたのです。それを論文発表したのが2023年です。
私たちが注目しているのは、ハロゲンの中でもクロスカップリングを含む多様な反応に利用できる臭素(ブロモ基)です。芳香環上のブロモ基を動かすのは難しいとされていましたが、この触媒を使ってブロモ基を狙いどおりに動かすことができれば、多様な反応を起こす分子を自在に合成できます。