One Hour Interview
マイクロ・ナノバイオテクノロジーを駆使して、血管や筋肉組織をつくる
武田直也
直径100μm程度の毛細血管もつくれる
筋肉や血管をある程度形づくるところまで進んでいるのですか
筋肉については、収縮能のある筋線維組織はすでにつくれています。血管についても、最近、新たな足場材料の構築に成功したことで、直径100μm程度の毛細血管を再現性よくつくれるようになってきています。大動脈のような太い血管はすでに人工物でつくられていますが、毛細血管は血液中の細胞などで詰まりやすいため人工物では難しいといわれています。
ですので、私たちの体と同じように細胞から作製する必要があるのです。3次元の再生組織の深部に血液を送る重要なパーツや、血管が壊死してしまうバージャー病などの治療に、私たちのつくった血管が役立つのではないかと考えています。
実際の医療現場で使われるようになるのはいつ頃になる見込みですか。
細胞のシート状組織を心臓や角膜などに移植する臨床研究はすでに行われています。これら組織のいわば原料としてiPS細胞の使用も始まりつつあります。 私たちはそれら組織を作製する基盤技術を開発していますが、私たち自身が作製した再生組織の医療応用にはまだ多くの研究が必要です。たとえば、移植した細胞や組織が体の一部として生着するのか、幹細胞を原料に使う場合は勝手に増殖するなどして腫瘍を形成しないか、などコントロールはなかなか難しいところがあります。
しかし、学術的にも面白く、患者さんのためにもチャレンジしがいのある夢のある研究です。数十年スパンになると思いますが、チャレンジしていきたいですね。
それがこれから実現したいことですか。
そうですね。それともうひとつ、バイオマテリアルに加えて、さらに幅広い機能や用途を持った材料を開発したいと考えています。そういった材料開発が、バイオマテリアル研究に新たな視点やアイデアをもたらすことも期待しています。ここはまだあまりお話しできないのですが、そういう材料もすでにつくり始めています。近いうちに論文を発表したいと思います。
早稲田大学 理工学術院先進理工学部生命医科学科教授 武田直也[たけだ・なおや] 1968年、千葉県生まれ。東京大学大学院工学系研究科化学生命工学専攻博士課程修了。東京女子医科大学先端生命医科学研究所助手(脳神経外科助手兼任)、早稲田大学生命医療工学インスティテュート講師、同助教授、早稲田大学理工学術院准教授をへて2018年4月より現職。経営学修士(MBA)の学位も持つ。一児の父。「子どもが成長とともにいろいろなことができるようになっていくのを見ていると、生命に対する畏敬の念がわく」という。
「第27回松籟科学技術振興財団研究助成受賞」
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