One Hour Interview
マイクロ・ナノバイオテクノロジーを駆使して、血管や筋肉組織をつくる
武田直也
マイクロ・ナノバイオテクノロジー
細胞がつかないほうがいいというのはどういうケースですか。
たとえば、血液が材料に接するとすぐに固まってしまいます。これは、血液中の細胞やタンパク質が材料と相互作用することで起こります。しかし、血液を固めずに容器の中で保存したり、体の中に埋植した材料が原因で血栓ができないようにする技術は有用です。また、先ほど説明した足場材料で生体組織を作製する研究において、複数種類の細胞をそれぞれ位置を決めて配置して複雑な組織をつくることも夢見ています。
この実現には、まずは細胞Aを位置XにはつけないでYだけにつけ、続いて細胞BをXにつけるといった手法が有効です。ここで、外部刺激で細胞の接着と剝離をコントロールする技術が生きてきます。だから私たちは、まず2次元の基材で細胞の接着性をコントロールする基礎的な研究もしています。当てる光の波長を変えると細胞がついたり剝がれたりとか、マイクロ・ナノサイズの凹凸をつけるとつきにくくなるとか、そういう研究ですね。これらの研究では、光に反応する物質を組み込んださまざまな高分子材料をつくっています。凹凸の研究ではどれくらいの大きさにするかということがポイントになってきます。
不勉強でお恥ずかしいのですが、資料を読んでいて、マイクロ・ナノバイオテクノロジーという言葉を初めて目にしました。
先ほどの凹凸の大きさはμm(マイクロメートル)やnm(ナノメートル)のサイズですね。それから、光に応答する基材は、顕微鏡観察の試料をつくるのに使うカバーガラスの表面に私たちが開発した新しい材料を薄くコーティングして作製します。その厚さは30nmくらいです。そうした基材を使って細胞の挙動をコントロールするから、ナノバイオテクノロジーということになりますね。ところで、細胞1個の大きさはどれくらいだと思いますか。
(突然の逆質問に戸惑いながら)ウーン、単位はどう言えばいいのでしょうか。
μmオーダーですね。100μmは1㎜の10分の1です。
(自信なさそうに)10マイクロくらいですか。
素晴らしいですね。だいたいそれくらいです。繊維状の足場材料で細胞を集積させて3次元の組織を作製する場合、私たちは10μmの細胞を操るために直径2μmくらいの繊維をつくります。だからマイクロバイオテクノロジーであり、それに先ほどの基材ではナノサイズの材料を使っているからマイクロ・ナノバイオテクノロジーとなるわけです。