ハリマ化成グループ

One Hour Interview

One Hour Interview

マイクロ・ナノバイオテクノロジーを駆使して、血管や筋肉組織をつくる

武田直也

人体組織を体の外でつくる

今はどのような研究をされているのですか。

 ひとつは人体の組織を体の中ではなく、材料工学や細胞工学の技術を駆使して体の外でつくる研究です。私たちの体は、膨大な数の体細胞が集まってできています。200種類以上の細胞がそれぞれの種類に応じて多様な機能を担い、周囲の細胞同士や高分子などからなる基質に接着しながら精緻な3次元形状へと集積しているのです。そうした微小な細胞の操作を単一細胞レベルで実現するマイクロ・ナノ工学技術や装置・システムを開発して、細胞の挙動や機能を制御する。と同時に、細胞接着の足場として有用な高分子バイオマテリアルを開発して細胞を集積させ、3次元的な再生生体組織の構築を行っています。そういう装置や足場を用いて実際に作製している組織は、現在は筋肉と血管が主です。

本物の筋肉や血管ができるのですか。

 たとえば筋肉では、細胞が一列に並んで融合することで繊維状の組織が形成されています。細胞はもともと融合して筋線維になろうとする能力を持っているので、一列に配列する段階さえ手助けしてやれば、筋線維が形成されやすくなっていきます。そこで、細胞と同じくらいの太さの細長い繊維状の足場を作製し、しかもその足場を細胞の接着性に優れる材料でつくっておくと、播かれた細胞は繊維状足場に優先的に接着して、足場の配向に沿って並んで融合して筋肉の線維が効率的にできるのです(図)。細胞を細長く並べて融合を促す点では血管も基本的には同じですが、管腔形状をつくり出す必要があり、その分だけ難易度は高いといえます。

その細い繊維のようなものは人工的につくったものなのですか。

 高分子材料でつくっています。それを足場と呼んでいます。私たちは化学が専門なので、そういう材料をつくることができるのです。

その足場にうまく細胞がつくようにするための条件があるのでしょうか。

 細胞接着性の制御は非常に重要です。もともと細胞接着性を持っている材料を利用したり、素材となる化合物にさらに化学的に修飾を施して細胞接着性を増大させることもあります。たとえば、コラーゲンに熱をかけて変性させたタンパク質であるゼラチンは、細胞がくっつきやすい性質を持っています。逆に細胞があまりつかないようにすることが必要なときもあり、そういう材料の研究もしています。外部から光などの刺激を与えて、細胞をつけたり剝がしたりコントロールできる材料も開発しています。

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