One Hour Interview
新規性のある界面活性剤の分子設計から物性評価までを一手に担う
吉村倫一
構造と物性の相関性を解明したい
界面活性剤の研究の歴史は長いのに、まだ基礎的な部分で分かっていないことがあるということですか。
既存の界面活性剤のことはだいたい分かっています。けれどもジェミニ型とか、デンドリマーを導入したような界面活性剤は既存のものとかなり物性が違ってきます。教科書に書いてあるような理論ではうまく説明できないこともあります。この分野でも構造と物性の関係など、まだ解明しなければならないことがたくさんあります。
私は、分子の設計や合成だけではなく、物性の評価まで自分でやっています。溶液中での会合体の状態などは、スプリング-8にある小角散乱装置を用いて細かく調べます。茨城県のJ-PARC(大強度陽子加速器施設)や東大の物性研に行くこともあります。ここまで幅広く取り組んでいることは、自分でも誇らしく感じています。もちろん幅広くといっても絶対に手は抜きません。合成は純度の高いものしかつくりませんし、物性評価も一つひとつのデータの再現性を何度も検証し、精密で正確なデータを出します。だから私の研究室の学生は、朝から晩まで実験に追われています(笑)。
これからの研究者は、幅広くやったほうがいいとお考えですか。
研究者によって考え方が分かれるところかもしれませんが、いろいろできたほうがいいと私は思っています。今までやったことがない物性評価などは専門の先生にお願いしたほうが楽かもしれませんが、可能な限り自分たちでやりたい、そこまで含めて研究の成果を自分で確かめたい、味わいたいという気持ちもあります。
研究に行き詰まったときはどう対処されていますか。
いったん、そのテーマの研究はやめて、他のテーマの研究に力を入れます。そして半年から1年経った頃にもう1度、少し別の角度からトライしてみます。そうすると50%くらいの確率でハードルを越えることができます。
界面活性剤の研究を始めてもう20年くらいになりますが、それでもまだ面白いと感じます。なかなか答えが見つからないところが面白いのでしょうね。構造と物性の相関性はなかなか解明できません。あと20年くらい、私が定年になって辞める頃までに答えが出ればいいのではないですか。なんだか界面活性剤の魔力にはまった感じですね。
奈良女子大学 研究院自然科学系化学領域教授 吉村倫一[よしむら・ともかず] 1973年、和歌山県生まれ(宮崎県、鹿児島県育ち)。熊本大学工学部応用化学科卒。同大学院博士後期課程自然科学研究科生産科学専攻修了。博士(工学)。東京理科大学理学部応用化学科助手・講師を経て奈良女子大学大学院人間文化研究科共生自然科学専攻助教授、准教授の後、2014年4月より現職。奈良女子大学の学生については「もう少し余裕を持ったほうがいいと思うくらい真面目」と評する。研究室の学生の大半は、大学院修士修了後、企業に入って研究者として働いているという。「研究に性差はない」というのが持論。「社会に出て10年後、20年後にト ップに立てるような指導をしている」と話す。
「第29回松籟科学技術振興財団研究助成 受賞」
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