One Hour Interview
新規性のある界面活性剤の分子設計から物性評価までを一手に担う
洗剤や化粧品に使われる界面活性剤の研究を始めて約20年。
より付加価値が高く、環境に優しく、高機能な新しい界面活性剤を開発するため、分子設計・合成から物性の評価まで一貫して取り組んでいる。「あと20年くらいはこの研究を続けたい」と、吉村倫一さんはますます意欲を燃やす。
吉村倫一
奈良女子大学
研究院自然科学系化学領域教授
最小限の量で最大の効果を
界面活性剤が洗剤や化粧品などに広く使われていることはよく知られていますが、そもそもどんな物質なのでしょう。
ひとつの分子の中に親水基と疎水基の両方を併せ持っているのが界面活性剤の大きな特徴です。親水基は水に溶けやすく、疎水基は水に溶けにくく油に溶けやすい。つまり同じ分子の中にまったく相反する性質が共存しているわけです。だから界面活性剤をうまく使うと水と油が混ざりやすくなります。
多くの化粧品は水と油を原料にしていますから、どうしても界面活性剤が必要になります。洗剤や塗料、医薬品などにも使われていますし、乳化剤の形で食品にも使われています。
工業的に広く使われて定着しているものを、あえて新しく開発する必要があるのですか。
地球規模での環境保全への関心が高まる中で、日々大量に消費されている界面活性剤に対してもさまざまな要求が寄せられています。最小限の量で最大の効果を発揮する界面活性剤の開発は、環境負荷低減、省資源、工業プロセスの生産性向上などの観点から、現代的に大きな意義があると考えられます。
研究内容についてお話しいただけますか。
現在、多くの分野で使われている界面活性剤は、1分子内に1本の炭化水素鎖とひとつの親水基からなる典型的な1鎖型の両親媒性構造をしているものが大半です。しかし、その枠内での構造改変ではおのずから限界があります。そこで私が着目したもののひとつが、分子内に疎水基と親水基をそれぞれ2つずつ持つジ ェミニ型の界面活性剤です。
ジェミニは双子という意味で、私は10年以上前からジェミニ型界面活性剤の研究をしてきて、さまざまなタイプのものを開発してきました。たとえば、環境への負荷を低減する動的光散乱(DLS)で界面活性剤が形成する会合体のサイズを測定、解析。ため親水部にアミノ酸や糖を持ってきたジェミニ型界面活性剤があります。