One Hour Interview
新規性のある界面活性剤の分子設計から物性評価までを一手に担う
羽毛田洋平
産業利用のハードルはコスト
その研究で一番難しかったのは?
10年くらい前から糖を扱っていますが、これがなかなか厄介でした。目的物はできても、残った糖を除去することがなかなかできなかったのです。再結晶とかカラムクロマトグラフィーとかいろいろ試してみたのですが、うまくいきませんでした。
ただ最近、ある吸着剤を使ったところ、簡単に糖を除去できるようになり、今は収率よく目的物をつくることができるようになっています。糖の単離に学生はひどく手こずっていましたが、その吸着剤にたどり着いたら意外に簡単だったと…。そういうことってありますよね。
いただいた資料に、1本または2本のアルキル鎖を有する多鎖型両親媒性デンドリマーの分子設計に世界で初めて成功したとあります。
デンドリマーというのは、木が枝を伸ばしたような分岐した構造を持つ樹状高分子です。そのデンドリマーにアルキル鎖を導入したものができないかと考えて分子設計し、1年半から2年くらいかけて合成に成功しました。
樹状の分岐度を世代と言いますが、今は5世代まで伸ばした状態で、末端の官能基だけで64個あります。調べた限り、こういう界面活性剤的なデンドリマーの合成に成功したという前例はありませんでした。
それが産業的に利用される道はあるのですか。
今のところまだありませんが、学会などで報告したのでいろいろなところから注目されていますし、サンプルを分けてほしいという依頼もありました。ただ、問題はやはりコストです。企業は必ず製造コストを試算しますが、既存の界面活性剤を使ったほうがいいという結果だったようです。化粧品に使う場合は薬事法も絡んできて、そこのハードルはかなり高いと言われています。でも、デンドリマーではありませんが、企業と共同で開発したもので、近い将来トイレタリー用品として使われる見込みの界面活性剤はあります。アミノ酸系の界面活性剤で、私がこれまでにかかわった界面活性剤で産業的に使われるのは、これが初めてになります。