One Hour Interview
低環境負荷合成法によるナノ材料開発に挑む
横山 俊
還元剤はビタミンC
いろいろ研究されているようですが、松籟財団の助成を受けた研究についてお話しいただけますか。
これまでは銅のナノ粒子をつくっていましたが、今はそれを応用して銅のナノワイヤをつくる研究をしています。ナノワイヤは透明電極の材料として使われることが期待されていて、ワイヤの長さはマイクロサイズ、直径はナノサイズです。ワイヤの長さが長いほど、そして直径が小さいほど性能がよくなります。
ナノワイヤのこれまでの合成法は、有機溶媒やエネルギーをたくさん使ったり、環境によくない影響を与える物質や危険性のある物質を使ったりする方法が主流でした。たとえば還元剤にはヒドラジンを使うのが一般的です。ヒドラジンはロケット燃料にも使われていて、強い毒性があり、扱い方を間違うと爆発する危険性もあります。
ということは、先生はヒドラジンを使っていないのですね。
私が還元剤として使っているのは、アスコルビン酸、つまりビタミンCです。ビタミンCでも銅のイオンとか錯体を還元することができます。銅のナノ粒子をつくる研究をしていたときも、還元しやすい前駆体や中間体を経由させるなどの反応駆動力制御により、ビタミンCを還元剤に使う合成法の開発に成功しています。
なぜビタミンCに着目したのですか。
身近にあり、手で触っても何の問題もないものは何だろうかと考えていたときに、ビタミンCは銅イオンを還元できるかもしれないという報告や論文が複数見つかったことで、試してみることにしたんです。
そもそもなぜ銅なのですか。
プリンテッドエレクトロニクスで透明導電膜に用いられるITOは、レアメタルのインジウムを含んでいるため高価で資源量も少ないから、供給に不安定性があります。しかもインジウムには毒性があり、ITOの取り扱いによる健康被害防止に関する技術指針も厚生労働省から出されています。
その点、銅はインジウムなどに比べれば資源量も豊富で、透明導電膜として使ったときの光透過性などはITOと同等以上の性能を持っているからです。耐酸化性、低温焼結性、高アスペクト比(直径に対する長さの比)を有する銅のナノワイヤを低コストで合成することができれば、透明導電膜を必要とする種々のデバイスの低コスト化、高性能化が可能になるはずです。