One Hour Interview
フレキシブル高感度センサーで豊かな社会づくりに貢献したい
関谷毅
テクノロジーが人の役割を補う
高速道路のトンネルで天井のコンクリートが崩落する事故がありました。あのような事故も防げるようになるということですね。
少子高齢化の時代ですから、いろいろなところで人手が足りなくなっています。打音検査でコンクリートの状態を判別するのは専門家でないとできません。コンクリートの老朽化がどんどん進むと、人手に頼った保守管理には限界がきます。だからテクノロジーで人の役割を補う。それがセンサーの役割です。
そのセンサーはいろいろなところに応用できそうですね。
たとえば農業があります。耕作地の水分とか肥料の量などをセンシングして、水や肥料を蒔くタイミングを適正化するスマートアグリです。私たちが今一番力を入れているのは、医療や介護の分野です。冷却シートのように伸び縮みするシート状のセンサーを額に貼って脳波を測定する。そうすればその人が緊張しているのかリラックスしているのか簡単に分かります。リアルタイムで脳の中が可視化できるのです。データをたくさん取り、脳波の変化の意味が解析できれば、認知症の判定もできるようになるでしょう。私たちはすでに脳外科医と共同で霊長類の脳の中に電極を入れ、活動時の脳波の包括的な計測をしています。どういう活動をしているときに脳波がどう動くか、高度な社会性を持つ霊長類の高次脳活動を大脳皮質および基底核の活動まで、包括的に調べているのです。
認知症の診断は専門医でも難しいのですが、軽度の認知障害なら薬も効き、進行を止めたり遅らせたりすることができると言われています。だから認知症になる前に脳の異変を早期に気づくことが大事なのですが、これまでは手軽に脳波を測定する方法がありませんでした。
現在は頭を隈なく覆う“ヘッドギアタイプ”の電極を装着して脳波を測定する方法が一般的です。でもこの方法は計測用の導電性ペーストを頭皮に塗るため、頭がべちゃべちゃになり被験者の負担が大きいし、専門性が高いため高度な知識を必要とすること、そして何より測定するための医療機器は非常に高額です。その点、私たちが開発したセンサーは額に貼るだけですから負担が少ないし、取り出したデータをスマホで処理できます。大型の医療機器にとって代わる開発ではなく、徹底的に使いやすさにこだわった開発です。だから家庭で簡単に測定することができるのです。薬を服用しながら脳波を測定すれば、どの薬がどの程度効いているか、定量的に評価することもできるようになるでしょう。それができれば、誰にどの薬が有効か、個別化した投薬も可能になるはずです。