One Hour Interview
史上初の有機系二次元トポロジカル絶縁体の創成にチャレンジ
坂本良太
実用化まで100年?
STSによるエッジ状態の観察と、量子スピンホール伝導の観測はこれから手を付けるのですね。
STSに関しては3月の半ばから共同研究を始めました。でもまだどこまでいけるか分かりません。
量子スピンホール伝導の観測とは?
トポロジカル絶縁体のエッジ部分は、ある特定の伝導率を示すことが理論的に提唱されていますので、これを実測することに相当します。ただ、ARPESによる実測にしても量子スピンホール伝導の観測にしても、もっと大きくてきれいなボトムアップ型ナノシートをつくる必要があります。測定するには少なくても数百ナノメートルくらいのサイズが必要なのですが、現状ではその1000分の1くらいのサイズしかできていません。まずそこをクリアしなければならないのですが、このハードルが結構高いのです。
見通しはいかがですか。
正直、苦戦しています。今の合成法では小さなものはきれいにつくれますが、限界があるのかもしれません。この方法にとらわれず、合成方法を根本から見直す必要があるのかもしれないと考えています。
大きくてきれいなものを安定的につくれるようになれば、この研究は大きく前進するのですね。
それは間違いありません。
二次元トポロジカル絶縁体が実用化されるとしたら、どれくらい先のことになるのでしょう。
10年、20年ではないですね。もしかしたら100年くらいかかるかもしれません。今はまだ夢物語なのかなという気もします。
当面は4つの課題をクリアするのが目標になりますが、それにはどれくらいかかりそうですか。
順調にいけば1~2年でできるはずです。
研究は面白いですか。
もちろん。これは基礎化学全般に言えることですが、できることはある程度できるようになり、次は何を追究すればいいのかと考えている研究者が多いのではないでしょうか。ナノシートは新しい領域でしかも手が届きそうですから面白いですね。最近、『ネイチャー』の姉妹誌にジピリンナノシートに関する論文が掲載されました。論文を書くのは好きですし、ストーリーを考え、読みやすくするのは得意です。これだけは負けない自信がありますよ。
東京大学 大学院理学系研究科化学専攻 助教 坂本良太[さかもと・りょうた]1980年、長野県出身。東京大学理学部化学科卒。同大学院理学系研究科化学専攻博士課程修了。理学博士。東京理科大学理学部助教を経て、2010年1月から東京大学大学院理学系研究科化学専攻特任助教。同年10月から現職。赴任後の4年間に41報の論文と13報の総説を書き、5冊(共著を含む)の本を執筆し、17の招待講演を行ってきた。論文は最初から英語で書く。スポーツが大好きで筋トレとジョギングはほぼ毎日している。
「第32回松籟科学技術振興財団研究助成 受賞」
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