One Hour Interview
遺伝子組み換えシアノバクテリアによるエタノール生産を目指す
得平茂樹
遺伝子を切らせないようにする
先生は世界で初めてスピルリナのゲノム解析に成功されたそうですね。それで、そういうことが分かったのですか。
私が成功したというと、ちょっと語弊があります。私も参加したグループで成功したのです。その結果、スピルリナは本物のビタミンB12をつくる遺伝子を持っていないことが判明しました。これは私の研究にとっては大きなマイナス材料です。でも、人が利用できる形のビタミンB12をつくっているバクテリアはたくさんいます。そういうバクテリアのビタミンB12をつくる遺伝子を入れてやれば、スピルリナも本物のビタミンB12をつくれるようになると考えられます。それがこの研究の一番の目的です。
遺伝子を入れることは、簡単なのですか。
今、お話ししたようなことは、スピルリナが工業的に利用されるようになってから多くの人が考えてきたことです。しかしまだ誰も成功していません。
生物にとっては、よそから他の遺伝子が簡単に入ってきては困ります。だから生物はみんな、他の遺伝子が入ってこないようにするシステムを持っています。そのシステムをごまかして、いろいろな遺伝子を入れられるようにするのが、遺伝子組み換えの技術です。しかしスピルリナに関しては、遺伝子組み換えの技術が未だに開発できていないのが実情です。
誰も成功していないが、遺伝子を入れられる可能性はあるとお考えですか。
はい。可能性はあります。しかしバクテリアは、外から入ってきた遺伝子の本体であるDNAを切ってしまうシステムを持っており、ゲノムを解析してみると、スピルリナは他のバクテリアに比べて、DNAを切るシステムがあまりにも発達していることが分かりました。そういうシステムのことをよくハサミに例えますが、スピルリナは10種類以上のハサミを持っているのです。もちろんスピルリナは自分のDNAも持っています。それが切られてしまったら死んでしまいますから、自分のDNAはハサミで切られないようにするシステムも同時に持っています。なので、ハサミで切られないような形のDNAをこちらで用意してやれば、スピルリナにそれを入れても切られないと考えられます。ゲノムが解析できたので、切られなくするために必要な遺伝子も明らかになっています。
そこで、遺伝子操作がしやすい大腸菌を使って、スピルリナが切れないDNAを用意しようと、今チャレンジしています。