One Hour Interview
世界で初めて緑藻で植物由来の成分をつくることに成功
村中俊哉
未来へ向けての突破口が開けた
これから先はどういう展開になるのですか。
先ほど二つの遺伝子が必要といいましたが、ここまではひとつ目の遺伝子で、アビエチン酸に至るひとつ前の物質であるアビエタジエンができたというところです。今はもうひとつの遺伝子を入れ込んでどうなるかを見ているところです。酸化酵素の遺伝子を入れているのですが、対になる補酵素も必要になります。葉緑体が持っているものを使ってやっていますが、うまく機能するかどうかはチャレンジングなところがあります。機能しなかったらさらにいろいろ工夫が必要になるでしょう。
この研究がうまくいって産業用のレベルで大量につくれるようになったら、どういう成果物が得られるのですか。
もともとロジンは混合物で、一つひとつの成分の機能はよく分かっていないところがあります。私たちが開発した方法なら、アビエチン酸などに狙いを定めた混合物ではないものをつくれるようになります。それぞれの成分にどのような機能があるかも分かるようになるでしょう。その機能に応じた新たな用途を開発できることも期待できます。
ようやく初めてできたというところですが、実はこの一歩が大事なのです。ひとつ突破口が開けば、他の研究者も研究を始めたり加速させたりしますからね。私たちはいろいろな遺伝子を持っていますから、組み合わせをいろいろ変えることができます。そうすると今までは自然界になかったもの、あるいは微量にしか存在しなかったものをつくり得る可能性もあります。その中には今まで知られていなかったいろいろな生理活性、物性があるかもしれません。
今まで想像できなかったような夢の新薬ができるかもしれないということですか。
そういう可能性はあります。希少だったものを大量生産できるようになるということもあります。今まで薬効が知られていなかったり、分からなかったりしたものをスクリーニングすることもできるようになるはずです。生産法を変えると思いもつかなかったものができるかもしれないのです。
私はこれまで樹木にはあまり着目していませんでした。しかし今回の研究で樹木も面白いと思うようになりました。植物が出す揮発成分で植物がどうコミュニケーションしているか、情報をやり取りしているか、そういうことを探る研究もしてみたいと考えています。
大阪大学大学院 工学研究科生命先端工学専攻教授 村中俊哉[むらなか・としや] 1960年、大阪生まれ。京都大学農学部農芸化学科卒業。京都大学農学研究科農芸化学専攻修士課程修了。約15年間、住友化学に勤務したのち、理化学研究所植物科学研究センターを経て、 2007年、横浜市立大学木原生物学研究所教授に就任。2010年から現職。現在は理研環境資源科学研究センターの客員主管研究員を兼任。ハリマ化成との共同研究をするまでは「ロジンのことはほとんど知らなかった」という。八ヶ岳に保有する山小屋で過ごすのが何よりの楽しみ。
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