One Hour Interview
世界で初めて緑藻で植物由来の成分をつくることに成功
村中俊哉
植物に有用な化合物をつくらせる
20万種のうち、人間が利用しているものはどれくらいあるのですか。
おそらく1割もないでしょう。薬になっているものはもっと少ない。
こういう低分子化合物は植物の体の中で、酵素の反応による多段階のプロセスを経てつくられていきます。石油化学コンビナートが、石油を修飾させていろいろなものをつくるようにですね。植物は偉大な化学工場といえます。しかも右手と左手のように、鏡像のように似ていてまったく異なる物性を持つものをつくり分けることもできます。植物がどうしてそういうものをつくれるかというと、そういうものをつくる酵素、さらにその元となる酵素遺伝子を持っているからです。
あらゆる植物が20万種以上もの有用物質のすべてをつくっているわけではありませんが、たとえば特定の環境で育つ絶滅危惧種の植物でしかつくられない物質もあります。それを仮に物質Aとします。物質Aは、その植物が絶滅すると自然界から取ってこれなくなってしまいます。でも、その植物から物質Aをつくる遺伝子を取ってきて、それを何らかの生物に入れることができれば、物質Aを持続的に生産することが可能になります。私の研究室ではそういう遺伝子を捕まえてきて、その遺伝子を酵母や別の植物などに入れ込んで有用な化合物をつくらせる研究をしています。この研究でカギになるのは、ひとつは遺伝子を取ってくること。もうひとつは、どういう生物に入れ込むかということです。
実際、どういう化合物をつくろう込んでつくらせることができます。
たとえばブドウやオリーブなどに含まれるオレアノール酸の生合成に関わる酵素遺伝子を発見しています。それから(席を立ってゴボウのようなものを持ってくる)、これは甘草(カンゾウ)の根っこです。この中に多段階のプロセスでできるグリチルリチンという甘味の成分が含まれています。このグリチルリチンの生産に関わる酵素の遺伝子も同定しています。遺伝子が取れれば、酵母に入れ込んでつくらせることができます。作物にその遺伝子を入れて、甘い大豆をつくらせるというようなことも可能になってきます。ジャガイモの芽の部分に毒があることはご存知ですよね。ですが、この方法で毒の代わりに、いろいろな医薬品の原料になるステロイドをつくらせることも可能になると考えています。