One Hour Interview
ナノレベルでの表面科学で多彩な研究テーマに取り組む
吉村雅満
いろいろな分野との融合が必要
それができると、アスリートが使うような人工股関節の寿命が長くなるということですか。
そうですね、強い力にも耐えられるから、激しい運動もできるようになるかもしれません。ただ少し前に人工股関節学会が開かれたので発表を聞きに行ったら、金属―金属の組み合わせには否定的な意見が多いのでショックを受けました。きっといずれまた見直されることもあるでしょうから、この研究は今後も続けなければいけないと思っています。
それにしてもナノテクノロジーは扱う領域が広いですね。
ナノレベルになると、物理とか化学といった区別はあまり意味がなくなります。私たちの研究室では生物学に関わるテーマにも取り組んでいます。いろいろな分野との融合が必要な学問なんですね。また、そうしないと発展しないとも思います。そこがナノテクの面白さでもあります。
人工股関節以外にも生物学と関係のある研究テーマはありますか。
真空表面科学と大気圧表面科学との接点ということもテーマにしています。今までCNTとかグラフェンなどの物質合成は、だいたい真空環境を利用してきました。カーボンなどは大気中では合成できないと思っていました。でも、真空中で実験するのは大変ですし、真空環境をキープするのもそれなりに大変です。それに必ずしも真空中でなくても大丈夫だということも分かってきたのです。真空表面科学の技術やノウハウをうまく使って大気圧でものづくりをすれば、ブレークスルーができるかもしれません。実際、グラフェンは大気圧で0.5ミリメートルくらいの単結晶をつくることに成功しています。これは多分、トップレベルの大きさです。
でも、生物学と関係ないのでは…。
ダイヤモンドも試験管1本でつくっています。アルコールを使う方法で2年くらい前から取り組んでいて、サブミクロンサイズのものは合成できるようになりました。個人的に結晶成長は大好きですし、本当はもっと小さいものをつくりたいのですが、成長の仕方はまだよくわかっていない部分がずいぶんあります。このダイヤモンドをドラッグデリバリーに使えないかと研究しています。ダイヤモンドは人体に悪さをしませんし、ナノサイズならそのまま排出されます。だからダイヤモンドに薬の運び屋になってもらおうというわけです。余談ですが、私たちはグラフェンの成長に大腸菌のDNAも利用しています。だから研究室の冷蔵庫にはいつも大腸菌が入っています。年に1回、検査のために停電になるのですが、大腸菌が死んでしまうのではないかといつも心配しています。大腸菌が化けて出たら怖いでしょうし(笑)。