ハリマ化成グループ

One Hour Interview

One Hour Interview

ナノレベルでの表面科学で多彩な研究テーマに取り組む

吉村雅満

人工股関節に関わる研究も

ずいぶんいろいろなテーマの研究をされているのですね。いただいた資料に「ミクロとマクロの接点」という研究テーマもありますが、これはどういう研究ですか。

 これはちょっと概念に近いものなのですが、原子や分子をずっと見てきて、逆に大きなところが見えていないのではと感じたのがきっかけで始めました。要するに、木を見て森を見ず、ということですね。ミクロとマクロはつながっているようで、実はつながっていないことがある。そのへんをつないでいく仕事です。たとえば物質の硬度を測る硬度計は、大きな表面を全部まとめて測定しています。金属の組織には、結晶の部分と非結晶の部分、それから結晶と結晶を結んでいるバウンダリー(境界)の部分がありますが、それらを全部一緒に測っているわけです。でも実際には、それぞれの部分によって硬度は違うはずです。そうしたところを追究して、摩擦力とか摩耗、硬度などを、小さい範囲から大きい範囲までしっかり見ていけるような方法を開発していきたいと考えています。

人工股関節に関わる研究もされているそうですね。今までお聞きした研究テーマとまったくかけ離れているような気もします。

 いや、これも摩擦や摩耗に関係した研究なのです。人工股関節では、カップと骨頭という部分が接触して擦れ合うのですが、素材としては金属やセラミックス、高分子材料などいろいろな組み合わせがあります。人工股関節は高齢の方が使うケースが多く、そういう人は激しい運動などはまずしないのでセラミックスを使ったりします。でもそれだと強度的に弱いという問題があります。また若い人や運動選手が使う場合は金属―金属の組み合わせがよいとされていますが、金属同士が接触すると金属イオンが出るなど、やはりいろいろ問題があります。そこで私たちはCNTを使えないか、企業と共同で研究しています。CNTをカップや骨頭の表面にコーティングすれば、摩擦力を軽減できることをすでに実験で確認しています。CNTはカーボンですから、生体との親和性もよいと言われています。

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