One Hour Interview
分子スケールナノサイエンスで使うスイッチング分子
松田建児
二次元相分離を用いてドメインを分離
もうひとつの研究とは?
有機分子の二次元配列をSTMを用いて測定することについて検討しています。これも、有機分子で電気回路をつくりたいというゴールは、金微粒子ネットワークの研究と同じです。ただ、今まではたくさんの分子に電気を流していましたが、この研究はひとつの分子に電気を流し、STMという方法でその流れ方が分かる原理を用いています。この原理自体は以前からあり、新しいものではありません。ただ、僕たちが取り組んだのは、異なる分子の電気の流れ方をどうやって見分けるかということです。テンプレートとなるポルフィリンの上にAという分子とBという分子をランダムに配列してしまうと、電気を流して測定しても、A、Bのどちらを測定しているのか分からなくなってしまうという問題がありました。
そこで僕たちは、異なる長さの側鎖を有するポルフィリンをテンプレートにし、二次元相分離を用いてドメインを分離する方法を考えました。これにより、A分子とB分子のSTM測定の高さを同時に別々に得ることができるようになったのです。これは何かが素晴らしく進んだというような研究成果ではありません。研究を一歩進めたという程度の成果です。でも、こういう一歩一歩の積み重ねが大事なのだと思います。いろいろな分子の電気の流れ方を調べていくうえで、これは重要な方法になるでしょう。
その方法を思いついたのは、発想の転換からですか。
というよりも、組み合わせの発想ですね。2種類の似たような分子を同時に測定すると相分離が起きるという論文は、前からありました。それを自分たちの研究と組み合わせたのです。別のところでやられていた研究と、こっちでやっていた研究を上手に組み合わせることで進む。世の中の多くの研究は大体そういうもので、これはそうした研究の典型といえるでしょう。
でも、それはコロンブスの卵のようなところがあります。ある意味、当たり前のことなのに、誰もやっていなかったし、言われてみたら「あ、なるほど」と思うのだけど、誰も気づいていなかった。そういう研究が一番筋がいいのではないかと思っています。
気づいたのは先生ご自身だったのですか。
学生さんと話していたときに気がつきました。ひとりで考えていても、気がつかなかったかもしれません。学生さんが実験の結果を持ってきたりすると、2~3時間もディスカッションするのですが、そういうときに気づくことが多いですね。講演をしていて、質問を受けたときに「あ、この人、いいこと言っているな」と思い、気がついたこともありました。四六時中考えているので、ひょんなことがヒントになったりするのですね。
この研究は、今どういう段階なのですか。
フォトクロミック分子をSTMの上で反応させて見てみようとしています。それに向けていろいろ成果も出てきています。フレキシビリティを与えるとうまくいくとか、アミド結合を入れるときれいに配列するとか、そういうことがどんどん分かってきているところです。そういう段階でも新しい発見はあるので、論文は発表します。そこは、最終的な成果が出るまで発表しない企業の研究と違うところです。