One Hour Interview
分子スケールナノサイエンスで使うスイッチング分子
松田建児
フォトクロミック分子をスイッチング分子に
今、先生が取り組んでいる研究が遠い将来、うまくいったとき、どういう成果物が得られるのでしょうか。
本当は論理回路とかそういうものをつくりたいと考えているのですが、それは僕が死ぬまでにはと思うくらい遠い先のことです。そのときの成果としてひとつ例を挙げると、脳があります。たとえば脳が信号を出して、筋肉が動いて、手が動く。その筋肉の動きひとつでも、人間はまだ再現できません。電気信号を流すと、クネッと曲がるような分子システムもまだない。それがどういうメカニズムなのか、有機分子をどう並べたらそれができるようになるのか、ということを考えていきたい。もちろんそれは非常に難しいことですが、自分で論理的に考え、判断できるような分子システムがつくれたらいいでしょうね。
人間の脳と同じようなコンピュータということですか。
今のコンピュータはパターン認識が苦手とか、いろいろ不得意なことがあります。そういうところをカバーできるようなコンピュータができるかもしれないでしょうね。
では改めて、先生の研究について、お話しください。
いくつかありますが、ここでは2つの研究についてお話しします。ひとつは、光で色が変わるフォトクロミック分子を用いた研究です。色が変わるということは分子の構造が変わるということで、構造が変わるのですから色だけでなく性質も変わります。そうした変化をスイッチのように使えないかということに僕たちは注目しました。電気信号が流れるとき、情報が伝わる。その伝わり方を分子で制御しようというわけです。
つまり、スイッチング分子ですね。
そうです。フォトクロミック分子は、見方を変えればスイッチング分子ともいえるんじゃないかと発想の転換をしたわけです。
そういうスイッチング分子を設計していこうということですね。
どういう設計をしたらどういうスイッチができるか、ということを考え、実際につくってみてその性質を調べています。この場合、心臓部とそれ以外のところがあり、心臓部に使えるものとしては既存のフォトクロミック分子が10種類くらい、知られています。心臓部で新しいものをつくるのは非常に難しく、一方で心臓部以外のところをつくるのはそれほど難しくありません。しかもそこは無限の可能性があります。僕らの仕事は、この心臓部以外の部分を設計して、いろいろな機能を持たせることです。心臓部以外のところをどうつくるかによって、蛍光部分を持たせるとか、磁性や電気伝導性を持たせるといったことができるのです。
その中のひとつが、金微粒子ネットワークを用いたコンダクタンス光スイッチングだそうですね。
そうです。金の微粒子とジアリールエテンジチオールでつくったネットワークを櫛形電極上に作成し、コンダクタンスの光応答性について検討してきました。金微粒子と有機分子はとても相性がいいのです。このネットワークは、電気を流すと、金微粒子と有機分子を交互に流れていくようになります。