One Hour Interview
つねに新しい方法論を追求、結合の切断・形成をコントロールし世の中に役立つ材料を提供
鳶巣 守
太陽光・可視光による有機合成に挑戦
まだお若いですが、研究者として、これからの方向性は。
難しいですね。これまで、一貫して方法論の開発というか、有機化学で「新しい」という点に焦点を当て、反応開発をやってきました。これは変わりません。これからもいろんな分野にチャレンジしたいと思います。今、特に興味があるのは光を使った合成で、少し手を着け始めています。光を使った合成というと、従来は、エネルギーの大きい紫外光を使うため、専用の装置が必要で、合成化学者が気軽にできる手法ではありませんでした。そうではなく、もっと使いやすい可視光や太陽光といったもので、有機化学者が利用しやすい反応を開発してみたいと思います。現行では、もの凄いエネルギーや時間を使っているものを、太陽光にさらすだけでできるようになる。クリーン、環境調和型の方法論に置き換え、応用する。そんな、夢のようなことを考えていきたいです。
鳶巣先生は以前、ある目的のために必要な有機化合物をデザインし、実際にその分子をつくりあげることができるのが有機合成化学者の特権だ、とおっしゃっています。今、実践されているわけですが、そもそも化学に興味を持たれたきっかけは何でしょう。
小学校5年生の担任の先生が放課後、小学校では習わないような実験をしてみせてくれたり、化学式を教えてくれたりしたのがきっかけです。その後、塾の先生のアルバイトをされていた阪大生、結果的に私の専攻の先輩にあたる方になるのですが、その方がタンパク質の構造の研究をされておられて、複雑な分子構造の絵を見せ、お話を聞かせていただきました。化学の教科書に載っているものは紙に印刷された平面的なものでしたが、実際の分子は、もっと立体的でダイナミックです。そんな分子構造を見て、「きれいだ」と感じましたし、圧倒された思いもしました。
有機化学を選んだのは。
いろんな分野がありますが、化学は論理的でない部分も結構あります。ただ、その中で有機化学は一貫性があるというか、論理的に説明できるように感じました。そこに興味を持ったのでしょう。皮肉なことに、今はその論理性にのっとらない、例外的な現象を見つけることに一番の楽しみを感じているんですが。研究以外では、推理小説やミステリーが好きで、かなり読んでいるのですが、論理的な中に最後にどんでん返しというか、驚きがあります。これは研究も同じで、プレゼンテーションにしても、反応にしても、人に驚きを与えることは重要だと思います。