One Hour Interview
つねに新しい方法論を追求、結合の切断・形成をコントロールし世の中に役立つ材料を提供
鳶巣 守
有機発光材料の合成法を開発
有機発光体の研究もされています。
初めから有機発光体を狙っていたわけではありません。炭素-炭素結合の研究をしているとき、手伝ってくれていた学生が想定もしていなかったシロール ※1という化合物が副生成物としてできたことを見つけてくれました。なぜできたのかは、わかりませんでしたが、原料と生成物の構造を見比べると、明らかに切れるはずのない結合が切れている。ケイ素に結合した3つのメチル基のひとつが切れていました。炭素-ケイ素結合の切断です。そこで、ケイ素上のメチル基を切る反応を開発しようということになったのです。
本当に偶然ということですか。
そうです。ただ、シロールができたということにも興味を持ちました。シロールが発光性の材料として有望ということは知られていました。しかし、従来法の多くは分子内反応で原料合成が複雑でしたし、発光体としてチューニングするための官能基を導入するのも難しく、作れるものが限定されてしまいます。一方、我々の方法論は触媒的で、激しい条件を必要としないマイルドなものですし、2分子のカップリング反応です。なので、合成反応としての自由度が高く、いろんな分子を作る発展性があります。
どのようなアプローチをとられたのですか。
一番面白い展開として、光学活性なシロールを作れないかと考えました。シロールは発光体として有望ですが、キラリティーはありません。キラリティーのある発光体として報告されていたのは、希土類のキラルな錯体やポリマーを使ったものだけです。それぞれ、経済性や構造制御といった点に問題があります。4つの異なる置換基を持つケイ素中心のシロールを合成できれば、キラリティーのあるシロールができます。低分子の有機化合物であり、分子設計により発光波長なども制御しやすい。しかも、キラルですから円偏光発光し、発光効率が高く、電力消費も抑えられる可能性がある。我々の方法論が、次世代の省エネルギー型ディスプレイ材料の開発に役立つということです。