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松やにの風味香るギリシャワイン『レッツィーナ』

『レッツィーナ』――。ギリシャを代表するこのワインには、松やにが入っている。
世界広しといえども、松やに入りのワインはおそらくこれだけだろう。
独特の風味は苦手な人も多いが、はまると癖になるというファンも多い。
それにしてもなぜ松やになのか。ソムリエの阿部誠さんにその由来を尋ねると、古代ギリシャの時代にまで話は遡った。
ひょっとしたら酒の神・バッカスも、このユニークなワインを味わっていたのかもしれない。

ソムリエ 阿部 誠さん

接着剤として使われた松やに

 ワインといえば、フランス。多くの人がそう思っている。確かにフランスはワイン大国であり、その意味でワイン=フランスという発想は間違っていない。けれどもワイン発祥の地は、実はフランスではない。いくつかの説があるが、ギリシャが世界で最も古いワイン生産地のひとつであることは、ほぼ間違いない。

 ワインづくりはフェニキア人により、オリエントから古代ギリシャ世界へ伝わったとされる。特権階級の飲み物であったワインは、エーゲ海の島々で庶民にも飲まれるようになり、やがてギリシャ本土やイタリアに広がっていった。当時、ワインは水で割って飲むのが一般的だったといわれるが、もちろんこの頃、ビンなどという便利なものはない。つくられたワインを運んだり保存したりするためには、アンフォラと呼ばれる陶器や土甕などに入れられた。阿部さんによれば、それが松やにとのつながりが生まれる発端になったそうだ。

レッツィーナ「RETSINA OF ATTICA」。ブドウの品種はサバティアノ100%、アルコール度数は約12%。生産者は、ギリシャ南東部のアッティカ、“クルタキ家”。

 「甕を使うと雑菌が入ったりして、ワインの安定という面で問題がありますし、そのままでは酸化も進むので、蓋をする必要がありました。その蓋を固定するために接着剤として使われたのが、松やにだったのです」

 ところが松やにには独特の香りがあり、甕のなかで保存するうちに、その香りがワインに移ってしまった。あるいは接着剤として使われていた松やにが何かのきっかけで直接ワインに混入することもあった。それを知らずに飲んだ人が、「これはうまい」といったかどうかは分からないが、その風味を気に入り、やがて意識的に松やにの香りをつけたり、松やにそのものをワインに入れたりするようになった。そうしてできたのが『レッツィーナ』というわけだ。

 「地元の土着品種のブドウを使っているのが、ギリシャワインの特徴のひとつです。シャルドネやカベルネといった世界的に知られた品種を使ったワインもありますが、生産量は決して多くありません。オリジナル性の高い個性あるワインが多いですね。そういう中でも『レッツィーナ』は際立って個性的なワインで、ギリシャワインを代表する銘柄のひとつといえます」

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