次代への羅針盤
科学者は社会の中の存在であれ
玉尾皓平
科学者は特別な存在ではない
ひらめきと言えば、「一家に1枚周期表」もちょっとしたひらめきから生まれたものでした。
あるシンポジウムで、科学をもっと社会に浸透させるためにはどうすればいいかという話題になりました。親が科学に興味を持たなければ、子どもが関心を持つわけがありません。そこで、リビングに元素周期表を貼っておけば親子で科学について話し合うようになるのではないかとひらめきました。
リビングに貼れる「一家に1枚周期表」というアイデアを披露したら、皆さん賛同されました。言い出しっぺとしてはやらないわけにはいきません。文部科学省に提案したらこれが受け入れられ、以来、全国の学校にこの周期表が配られるようになりました。仲間5人ほどとチームを組み、2005年から始めて平均1年半に1回くらいのペースで改定を重ね、現在は第13版が出ています。ポスターとして市販されているほか、文部科学省HPの科学技術週間コーナーにある「一家に1枚」ページからPDFがダウンロードできるようになっています。皆さん、ぜひご覧ください。「一家に1枚 周期表」はすっかり私のライフワークになっていますが、もちろん私にとっては人材育成もライフワークです。
その観点からいえば、次代を担う研究者にはぜひ「Scientist in Society」というマインドを大事にしていただきたい。科学者は、自分も社会の一員であるという認識を忘れてはなりません。これはアカデミックも企業も同じことです。この認識を忘れると、自分が特別な位置にいるかのように錯覚し、社会の規範に外れたことをしてしまいかねません。そうしたことを防ぐ重要なキーワードが「Scientist in Society」なのです。
社会のため、そして科学の発展のため、この言葉を忘れず研究に励んでいただければと思います。
異分野交流で研究者も 学問もブラッシュアップ
玉尾皓平[たまお・こうへい] 1942年、香川県生まれ。京都大学工学部合成化学科卒業。同大大学院工学研究科合成化学専攻博士課程修了、工学博士。同大工学部助手、同助教授、同大化学研究所教授・所長、同附属元素科学国際研究センター長の後、理化学研究所フロンティア研究システム長、同研究所基幹研究所所長、同研究所研究顧問などを歴任し、2014年に豊田理化学研究所理事、2016年より現職。若い頃は油絵、陶芸や茶道に傾倒したことも。
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