次代への羅針盤
科学者は
社会の中の存在であれ
ニッケル触媒によるクロスカップリング反応の開発など、
化学史に残る多くの実績を上げてきた玉尾皓平氏。
今は自らの体験も踏まえて、研究者支援、人材育成に力を注いでいる。
Kohei Tamao
玉尾皓平
公益財団法人豊田理化学研究所 所長
二つの人材育成プログラム
2014年の春、私は豊田理化学研究所に理事として入りました。この研究所はトヨタ自動車の創業者である豊田喜一郎さんが1940年に創設した、歴史ある研究所です。
1974年に豊田章一郎さんが理事長になり、井口洋夫先生が理事そして所長に就任されてからは、自前の研究だけではなく、研究者の支援や人材の育成にも力を入れるようになりました。育成の柱となっていたのは、大学を退職された先生をサポートするフェロー制度と、若手研究者を支援するスカラー制度です。
残念ながら豊田章一郎さんは今年お亡くなりになりましたが、2015年に所長を拝命したとき、私は章一郎さんから若手の人材育成を考えるようにいわれました。その課題に応えるため、2016年にスカラー共同研究というプログラムを始めました。このプログラムは、当研究所が毎年開催している異分野若手交流会への参加をきっかけにして生まれた共同研究に対し、研究費用の一部を支援するというものです。今年度始めた共同研究では勝ち抜き戦方式を採っているのが一つの特徴で、最初に選んだ10組を2年目から段階的に絞っていき、最終的に勝ち抜いた1組には大型の助成をすることになっています。
また今年、新たにライジングフェローというプログラムも始めました。これは国内の新進気鋭の大学教員を対象に最大1人当たり年間2,000万円、最長5年間助成するもので、今春、第1回目の募集を終え、現在は最終選考をしているところです。