ハリマ化成グループ

次代への羅針盤

次代への羅針盤

「知識」のみではいけない、「知恵」が大事

岡本佳男

遊びで知恵が養われる

 ただ、中国では大学と企業の共同研究がほとんどありません。少なくとも私たちの学術領域ではそうです。科学技術の発展には企業の力も不可欠で、その点、大学と企業の共同研究が盛んに行われている日本は評価できます。私たちの場合は、合成などの基礎部分は大学が担い、その後の実用化やものづくりの部分は企業にゆだねるというスタンスで取り組んできました。

 企業の研究者が興味を持って行える部分はきちんと担当していただき、すみ分けを行うのが共同研究をうまく進めるコツの1つです。私は企業の研究者に対して、研究指導は行っておりません。企業の研究者も一生懸命取り組んでいるのですから、知恵を出してよいものをつくってくれればよいと思います。

 知識は勉強すれば身に付きます。しかし、知恵はなかなかそうはいきません。知恵を身に付けるためには、いろいろな人と幅広く接することが大切です。それから、幅広く遊ぶことも。私は子どもの頃、野球や魚捕りなどで大いに遊びました。知恵がなければ魚は捕れません。遊びながら自分なりにいろいろ工夫する、そういうことで知恵が養われるのです。海外に行ったほうがよいのも、異文化体験で知恵が養われるからです。 2019年、私は日本国際賞を受賞しました。そのときいただいた賞金の一部を名古屋大学に寄付して、岡本若手奨励賞が創設されました。私自身、松籟科学技術振興財団の助成をいただき、とても助かったことがあります。若い人にはいろいろな可能性があります。私も自分の研究とともに、厳しい環境の中で頑張る若い人たちへの応援を続けていくつもりです。

大学と企業のすみ分けが共同研究成功の秘訣

岡本佳男[おかもと・よしお] 1941年、大阪府生まれ。大阪大学理学部高分子学科卒業。同大大学院博士課程修了。理学博士。大阪大学基礎工学部助手、同助教授を経て1990年、名古屋大学工学部教授。同大学定年退官後、同大学エコトピア科学研究所客員教授、高分子学会会長などを歴任。2007年にハルビン工程大学特聘教授に就任。2019年より名古屋大学特別教授に就任、現在に至る。紫綬褒章、日本学士院賞、日本国際賞など受賞歴多数。最近、運転免許を返納したため、今はなるべく歩くようにしている。

[第8回 松籟科学技術振興財団研究助成 受賞]

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