次代への羅針盤
「知識」のみではいけない、「知恵」が大事
岡本佳男
偶然見つかった突破口
私にも研究がうまくいかず、途方に暮れた経験があります。ミシガン大学への留学を終え、1972年に帰国し、不斉選択重合の実験をしていたときのことです。とても魅力的なテーマでしたが、研究を始めて1年以上が経過しても不斉選択を見出すことはほとんどできませんでした。
もうやめようかと研究を諦めかけていた1977年の正月、留学中に買った「Asymmetric Organic Reactions」という本を何気なく読んでいたら、アルカロイドのスパルテインが安価で市販されていることを知りました。そして1979年、このスパルテインを使ってらせん選択重合の実験をしたところ、見事に右巻きのらせん高分子だけを合成することができたのです。諦めずにいろいろ工夫して可能性を追求していけば道は拓けるということを、ひしと実感した出来事でした。
なおこのときは、魔法瓶のような装置をつくり、ドライアイスを入れて-78℃の低温環境で合成するという方法を用いました。高分子は、低温で冷やせば固まって動かなくなります。そういう環境で合成したら、少なくともその間は状態を保つことができます。その状態で旋光度を測定し、常温に戻したときに値が大きく変わらなければ成功だと考え試したところ、見事にうまくいったというわけです。
ちなみにこのとき私は大阪大学の助手で、まだ助教授にもなっていませんでした。