次代への羅針盤
もっと異分野にも出ていきなさい
加藤隆史
留学で出合った水素結合
私は30年以上前に水素結合に興味を持ち、以来ずっと研究を続けてきました。そのきっかけとなったのはコーネル大学への留学でした。私はそれまで液晶の研究をしていましたが、到着直後「研究室を3カ月見て、研究テーマを考えなさい」と指示されました。フレシィエ先生は、半導体製造に不可欠なフォトレジスト用に世界標準となった化学増幅レジスト高分子を開発された方です。フォトレジストは紫外線を照射して感光させますが、その光反応により水素結合基を露出させてその高分子を洗い流して、微細な配線パターンをつくっています。それを見て私は水素結合などを活用して相互作用を材料の設計に取り入れれば新しい材料ができるのではないかと考えたのです。液晶分子は通常、エステル・炭素結合などの共有結合で芳香環をつないでつくるのですが、私は水素結合でもつながって液晶になる材料を開発しました。今も盛んな超分子材料分野の先駆けとなった研究です。
化学増幅レジストの開発において、フレシィエ先生は、伊藤洋先生(私の先輩にあたる)とグラント・ウイルソン先生との共同研究をされました。フレシィエ先生は有機化学、伊藤先生は高分子化学、ウイルソン先生はペプチド化学というように3人はそれぞれ専門が違いました。すなわち、専門の違う研究者の出会いが世界を変えたのです。これがなければ、このような小さいスマートフォンはできていないといっても過言ではありません。