次代への羅針盤
もっと異分野にも出ていきなさい
加藤隆史
材料科学と水の科学を融合
通常、化学系の人と物理系の人は学会が別なので、直接会う機会はあまりありません。しかし、このプロジェクトは複数の異なる分野にまたがる、まさに学際的な取り組みです。そのため私たちは、頻繁に物理系の先生や計算科学の先生方と意見交換を進めています。物理的な知見と化学的な機能を組み合わせて徐々にさまざまなことがわかるようになり、新しい展開も見え始めています。
具体的にお話をしましょう。例えば、私たちの研究しているナノメートル(水分子と同じ大きさのレベル)の孔を持つ水をきれいにする膜では、その孔の中の水分子の状態をより詳しく知ることができ、分離の仕組みや新しい膜の設計に役立っています。
前述したステントの研究をしている先生もいます。私たちの体が異物と感じないような材料でステントをつくれば、血栓はできにくくなるはずです。どういう材料にするか、材料の表面をどういう状態にしたら血栓ができにくくなるか、そうした研究には水圏機能材料の知見が大いに役立っています。
ある先生は、水にミネラル成分すなわちマグネシウムやカルシウムは残して、味をそこなうあるいは有害なマンガン・鉛・鉄イオンなどを選択的に取り除くセラミック材料を開発し、酒蔵と共同でおいしい日本酒をつくって発売されています。
ほかにもデバイス・素材・環境・バイオ・医療などさまざまな分野にわたって材料科学と水の基礎科学を融合させた研究が進められています。