次代への羅針盤
もっと異分野にも出ていきなさい
「水圏機能材料」という新学術領域を提唱する加藤隆史氏。
異分野の研究者が集まったプロジェクトから何が生まれるか、期待と注目が集まる。
Takashi Kato
加藤隆史
東京大学大学院工学系研究科 化学生命工学専攻 教授
新たな学術領域を提起
文部科学省と日本学術振興会は、新たな研究領域を設定して異分野連携や共同研究などを行うグループ研究を支援する「科研費新学術領域」の事業を行っています。私たちはこれに「水圏機能材料」という新しい学術領域を提案して、2019年度に採択されました。今、私はこの研究領域の代表を務めています。
水圏とはもともと海や川、湖沼など地球表層部の水でできた部分を指す言葉ですが、私たちは水圏機能材料を、もともとの定義の場所に加えて、水の存在する生体内や都市の水環境などとも調和・相互作用しながら機能を発現する材料と定義しています。
材料科学の世界では、昔から多くの研究者が水を避けてきました。なぜなら応用先の代表である電子産業や自動車産業で使用される材料は、たいてい水と相性が悪いからです。半導体もスマートフォンも水の中ではまともに機能しません。私が研究している液晶や高分子も水は大敵の場合が多いです。私も学生の頃は、真夏にクーラーのない研究室で大汗をかきながら、材料が湿気を吸わないようにすることをいつも考えていました。
しかし時代は変わりました。環境問題や生体材料と関係して、水が人類の共通課題として注目されるようになりました。