次代への羅針盤
人の倍の努力をするそれくらいの覚悟を持ちなさい
柴﨑正勝
好奇心とチャレンジング精神
サイエンティストに必要な要素は、好奇心とチャレンジング精神です。この2つの要素は成長過程の環境の影響もあるでしょうが、持って生まれたものという面もあります。したがって優れたサイエンティストには、選ばれし人間がなる確率が非常に高いと私は考えています。ただし、本当に優れたサイエンティストとは、選ばれし人間が最大限に努力をしてなれるものだと私は思っています。
自分の能力に懐疑的な私は、それでも人の倍の仕事をしたら、勝てるかもしれないといつしか思うようになりました。だから若い頃からずっと、休むのは日曜日だけと決めていました。しかし一昨年、体を壊してからは土曜日も休むことにしました。2連休することがいかに体にとって楽か、70歳にして初めて知りました。しかしいまだ3連休は容認できずにいます。3連休のときは、1日は仕事をするようにしています。
もう1つ、40歳くらいからずっと自分で決めて守ってきたことがあります。二番煎じはするな、ということです。真っ白い紙に絵を描く、そんな研究をしろと自分に課してきました。今は注目される研究テーマが出ると流行のように広がり、世界中の研究者がワッとそこに集中します。よくない傾向だと思います。
それとはまた別のことですが、今の日本の有機化学界では大きな問題が生じています。求める化合物を自在に化学合成できるようになってきたのはいいことですが、その過程でどれだけの廃棄物が出ているかを考えていない研究者が多いのです。グリーンケミストリーという新しい学問領域も出てきていますが、有機化学を専門とする若手の研究者がそこから遠ざかろうとする傾向があります。そうしなければ研究費が取れなくなっているという事情もあるのかもしれませんが、これは今のうちに何とかしなければならない問題だと思います。