ハリマ化成グループ

次代への羅針盤

次代への羅針盤

人の倍の努力をするそれくらいの覚悟を持ちなさい

柴﨑正勝

生きた証となるほどの実績をあげたか自問

 それから50数年、今、私は毎日悶々とした思いを抱えながら生活しています。サイエンティストとして地球上に生きた証を残せるだけの実績をいまだにあげていないのではないかと思うからです。

 私は、複数の機能を有する不斉触媒の開発に世界で初めて成功しました。触媒の設計という概念を世界に発信したのも私の功績だと自負しています。触媒を使って医薬を合成するというのが私の研究の主たるテーマです。けれどもそうした研究の成果がダイレクトに社会に役立っているかというと、私には自信がありません。概念を発信するだけでなく、触媒の開発もしました。その触媒を使ってある大手医薬品メーカーが、糖尿病の神経症に効く医薬品の開発に取り組みました。柴﨑法とも言われることもあるこの触媒で完璧な工業的合性ができれば、世界に例のない画期的な医薬品が生まれるはずでした。しかし、最後の治験の段階で活性が不十分という評価になってしまいました。

 これはもう、運不運の問題としか言いようがありません。医薬品は、自分たちの関わった研究成果がダイレクトに社会で使われるようになるには、特にハードルが高く難しい分野です。

 何年先のことになるかわかりませんが、私が研究をやめた後、あるいはこの世を去った後も柴触媒は残ります。それを使っていつか誰かが画期的な医薬品をつくるかもしれません。そういうことのために今ある柴﨑触媒を最適化し、最高の状態で残したい。もちろん私が生きている間にそういうことがあれば最高でしょうし、新しい触媒の開発もまだ続けるつもりです。

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