次代への羅針盤
世界に飛び出して
伊永隆史
失敗から何を学ぶか
大学の教授は、優秀な教え子ほど囲い込もうとしますが、外に飛び出させなければだめです。できれば海外に出ていくべきです。日本は研究の面でも閉鎖的な面があります。だから海外に出て異文化を経験することはとても大事です。
私は研究以外の面でも社会と積極的に関わってきました。特にこの10年は、政府の事業仕分けに力を入れてきました。少しでも国の予算の無駄をなくしたいという思いで参画し、国の予算の仕組みなど、それまで経験したことがなかった分野を勉強し、視野も広がりました。事業仕分けと似たようなことは、自民党安倍政権になってからも続けています。
今も東京大学環境安全研究センターの客員研究員をしながら、東京ワンセグ放送という会社の取締役会長もしています。自治体向けエリア放送の開局・運用を支援するのが会社のミッションです。災害時の自治体防災行政無線の機能不全を補完するため、各家庭のテレビに緊急事態を直接告知したり、エリア放送を通じて地域住民を明るく元気にするなどの支援対策にも力を入れています。
人生100年時代の今、私は80歳までは現役で仕事をしていこうと考えています。研究も続けながら、社会にも積極的にコミットしていくつもりです。
地域社会の課題から研究のヒントを得ることもあります。社会のニーズは大学の研究室にはないので、殻に閉じこもっていては何も生み出すことはできないと思うのです。イノベーションは失敗から生まれることもあります。特に日本人は実験の失敗がきっかけとなったノーベル賞受賞が少なくないのです。大事なのは、失敗から何を学ぶかです。失敗からヒントをつかまえることができるかどうかが勝負なのです。もちろんヒントを見逃さないようにするためには日頃からの準備が必要です。
小さな世界に閉じこもらず、いろいろな経験を積み、洞察力を養い社会の求める方向性にかなう研究に取り組み、失敗を恐れずチャレンジする。次代を担う若い研究者の方たちは、ぜひそうあってほしいと思います。
研究室に閉じこもらず、さまざまな社会経験を積んで、時代を読む洞察力を養うことが必要だ。
伊永隆史[これなが・たかし] 東京大学 環境安全研究センター 客員研究員 1949年、岡山県生まれ。岡山大学理学部化学科卒業。同大学院理学研究科化学専攻修士課程修了。京都大学大学院工学研究科工業化学専攻博士課程において博士号取得。民間企業に3年半勤務したのち、岡山大学工学部助手に。以後、岡山大学助教授を経て、富山工業高等専門学校、徳島大学、東京都立大学、首都大学東京などの教授を務めた。その間、米バージニア州立工科大学、米ハーバード大学、米マサチューセッツ工科大学でも研究した。2012年4月、千葉科学大学副学長に就任。2018年4月より現職。東京ワンセグ放送株式会社取締役会長も務めている。腰痛改善のため朝晩30分ずつ、リカンベントバイクを漕ぐのが日課。
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