次代への羅針盤
世界に飛び出してを
伊永隆史
大事なのは、研究と教育と社会貢献
私はこの研究の一環で世界中の米のデータを集めていましたが、中国の米のデータは手つかずの状態でした。政治的な理由などから、中国国内で生産された米を日本に持ってくることが難しかったからです。しかし、昨年から中国の西安交通大学と共同でいろいろできるようになり、中国産米を日本に持ってこられるようになりました。
西安交通大学は、漢方薬の研究では中国でもナンバーワンの大学です。漢方薬は、産地によって効き目が違うと言われています。たとえば冬虫夏草は、ヒマラヤの北側で採ったものは優れた薬効を示すのに、南側で採ったものはそれほどでもありません。おそらくこうした現象にも微量な金属や安定同位体が関係しているものと思われます。西安交通大学とはこういうテーマでこれから共同研究を進めていくことができそうです。
このように私は研究テーマを変えてきましたが、そのベースが環境化学や分析化学にあることは変わっていません。つまり私は、環境化学と分析化学を基盤にしながら、時代の変化や社会的なニーズの変化に即応し、アプリケーションとしてのテーマを変えてきたのです。
大学の研究者にとって大事なのは、研究と教育、そして社会貢献だと思います。研究者には、研究をして論文を書くこと自体が社会貢献だと言う人もいますが、その認識だけでは甘いと思います。社会で実際にイノベーションを起こせるような成果を上げることこそが、大事なのです。