ハリマ化成グループ

次代への羅針盤

次代への羅針盤

世界に飛び出して

伊永隆史

イノベーションを起こせるか

 私は理学部出身ですが、博士号は工学分野で取りました。大学院を出た後は一度、民間企業に就職しています。その後、専門としてきた環境化学は、実学に近い応用の学問です。基礎研究の重要性を否定するつもりはまったくありませんが、私自身は時代のニーズ、社会のニーズにかなう研究を心掛け、5年後、10年後にそれがイノベーションを起こせるかという視点で研究テーマを選んできたつもりです。

 私は以前、東京都立大学に籍を置いていました。都立大学はその後、首都大学東京の開学にともない閉学され、私はそのまま首都大学東京の教員になりました。しかしこれを機に、教員個人の研究予算は大幅に減らされました。今は国立大学でも研究予算が年々減っています。

 それでも私は以前から国などの資金を引っ張ってくることに力を入れていたので、研究予算で困ることはありませんでした。

 実験やさまざまな機械設備を必要とする私たちのような研究は、予算が厳しいと優れた成果を上げることが難しくなります。しかし、社会のニーズに適合し、将来のイノベーションにつながるような研究であれば、大きな予算を取ることもできます。

 そうしたことは、社会をきちんと見る目がないとできません。この技術、このテーマは社会にどういうインパクトを与えるか、ということを見通す洞察力が必要です。そしてそうした力を養うには、いろいろな社会経験を積むことが必要です。同じ大学の同じ研究室に閉じこもっていては、どうしても視野が狭くなりがちです。

次のページ: 失敗から何を学ぶか

1 2 3 4 5